今日は、事業者目線でのアニメビジネスについての話。
「鬼滅の刃」が流行っている。とんでもなく流行っている。筆者も一通り漫画もアニメも見た。特にアニメの方は絵がキレイという評判につられて見たのだが、たしかに良くできてて見ごたえがあった。
ただちょっとあり得ないくらいに流行っている。公開10日で興行収入100億突破とか、歴代最速記録を樹立したそうな。
このとんでもない勢いの流行り方って、当然だけど従来のコアなアニメファンだけでは無理で、ライトなお客も大量に呼び込んでいるのは間違いない。
筆者の身近でもハロウィンの仮装で、特にアニオタっぽくも無い親子(子供は幼児)が揃って鬼滅コスしてたりして、まあ社会現象っぽいことになっている。
しかしこのアニメ、もともと人の惨殺シーンなんかも普通に出てくる深夜帯のアニメで、見る人が見れば明らかに大人のアニメファンに向けて作られたものだと分かる作品なのである。
Contents
大人向けアニメを幼児に見せていいんだっけ?
で、先日SNSを覗いていたら、この点に疑問を投げかけているインフルエンサーの方がいた。
曰く、「大人向けのコンテンツを幼児に見せるってダメなんじゃねーの?」「残酷な描写を子供に平気で見せる日本はおかしい」とのことである。
普通に考えて深夜アニメを幼児に見せてはダメである。作っている方もダメだと分かっているから深夜にやっているのである。加えてもし嫌がる幼児に無理やり見せてたら、それは明確な虐待である。
だから鬼滅の刃の映画版はレーティングが ”PG12” に指定されている。
PG12とは、全年齢視聴可能だが、幼児や児童には不適切な表現が含まれるので親の監督が必要、という区分である。
子供のいる方ならある程度想像できると思うが、少しでも暴力的な描写を見ると耐えられなくて泣く子もいる。平気で楽しめる子供もいる。自分がどちらなのか、見る前に子供自身では判別できないから、親が判断してあげてね、という意味のレーティングだ。
年齢制限をぶっ壊すマスコミの宣伝行為
なのだがここまで大流行してしまうと、リテラシーの無い親が子供を連れて見に来てしまい、「流行ってるっていうから見に来たのに、なんて残酷なもの見せるの!こんなもの禁止にして!」とかクソ面倒なこと言い出してファンの敵に回るような輩も出てくるんじゃないかと思う。
もしそんな声が大きくなってしまったら誰の得にもならないし、たぶんその状況は昔からのアニメファンが最も危惧する状況だと思われる。
そしてそういうクソな状況にならないために作られたのが年齢制限のレーティングなのだが、ここまで大々的にマスコミがマスに向けてマーケティングをやってしまっているので、せっかくの年齢制限のレーティングが意味を成さなくなっている。
しかも関西テレビではゴールデンタイムに「鬼滅の刃」のテレビシリーズを再放送までしている。なんのために深夜帯に放送してたの?と誰か突っ込んでやれよと言いたくなる。
筆者が想像するに、今後おそらく「残酷描写アニメダメ!」と怒り出す親が出てきて、またぞろアニメの規制云々といった話を、さんざん鬼滅の刃で儲けたマスゴミが煽りだす流れになるんじゃないかと思う。
まあまだ想像でしかないけども、何でまたそんなクソな状況になってしまうのか、アニメビジネスの構造から事業者目線で少し解説してみたいと思う。
日本のアニメ市場ってどんな内訳なの?
まず日本のアニメ市場の規模について。近年凄い勢いで伸びていて、日本のアニメ市場は2014年度(会計年度)で約1.6兆円。2019年では2兆円を突破しているそうな。
で、少し古い情報だが、2014年1.6兆円の内訳は↓のような感じ。(↑の記事でも詳細を解説)
うろ覚えで、定義によってもちょっと違ってくると思うので多少違ってるかも。ご容赦を。だいたいの規模感をつかんでもらえれば的な参考情報とご理解ください。
- 6,500億円:商品化市場。要はグッズ。プラモとかも含む。
- 3,000億円:遊興。主にパチンコ、パチスロ。
- 3,000億円:海外展開。
- 1,700億円:テレビ放映。
- 1,100億円:映画、DVD等のパッケージ販売。
- 400億円:映像配信。Netflixとか、アマプラとか。
- 300億円:ライブコンテンツ。声優のライブとか。
以上、合計で1.6兆円。
最近だとスマホゲームも増えてきているので商品化市場は更に伸びていると思われる。
注目して欲しいのは、テレビ放映、映画/DVD、配信といった映像そのものの市場規模は3,200億円くらいしかないということ。
アニメは映像そのもので儲けるビジネスではない
つまり、アニメビジネスで儲かるのは映像そのものではなく、グッズとかの商品化やパチンコといった二次利用で、ビジネス的にほんとに美味しいのはそっちだということ。
ぱっと見でも映画/DVDの収入に対して、グッズとパチンコ,パチスロは10倍以上の収入が見込めることが分かる。
例えば「鬼滅の刃」の映画興行収入が200億円になったとしたら、二次利用で軽く2,000億円くらいは売上が稼げるってことになる。(← 超適当なフェルミ推定)アニメビジネスとは一発当たったら凄いレバレッジがかかってボロ儲けできるビジネスなのだ。
ということでそんなに儲かるなら一口かませろってことで近年は新規参入する企業が増えており、絶賛競争激化中。
しかし全ての作品が大当たりするはずがなく、「進撃の巨人」とか「鬼滅の刃」みたいに大当たりするものは一握りだし、当然確実に当てるのは難しい。事実、一部の作品しか採算が合っていないのが現状。
そこで昨今は制作委員会方式をとる形が主流になっている。
博打なアニメビジネスと制作委員会方式
制作委員会とは、出版社や広告会社、玩具メーカー等が出資者として参画してそれぞれお金を出しあう方式。
TVCMに対して支払われる通常のスポンサー料に加えて、制作委員会に直接出資された資金を元にアニメ制作会社がアニメを作り、それがグッズ制作などの二次利用の原資になる。
要は当たり外れのでかいバクチなビジネスなので、1社で抱えるとすべったときに死ぬ。だから投資リスクを分散させるために皆でお金を出し合って作ってるってこと。
商品化の権利や儲けの配分なんかはこの制作委員会が仕切る形になる。
グッズで儲けようにも商品化の権利を持ってないと作れないので、まずはお金を出してこの制作委員会に入る必要がある。
そして二次利用しようにもアニメ作品が無いとできないので、とりあえず何でもいいから作れ、という流れになり乱発気味になっているのが昨今の状況。
グッズ化とパチンコ化のために作られるアニメ
ここからが超重要な話。
つまり逆に言うと、アニメビジネスってのはスポンサーが二次利用するのが当たり前のビジネスで、二次利用があるから成り立ってる、ということ。
グッズやパチンコで儲けるために作品を作ってる、と言っても良い。エゲつない言い方だけど、ビジネス目線だとそういう話なのだ。
そうやって市場に流れ込んだ2兆円が次の作品を作る原資になっていて、映像だけを見てもらって成り立つビジネスではなく、グッズを売ってなんぼなんだから、投資した企業は当然モノを売ろうとする。
そしてマスコミはその需要に応えるためにどんどんプロモーションをかける。
元のコンテンツが大人向けかどうかなんて関係なく、とりあえず過激な表現になってなければ良いという程度の判断で人目に触れるところで宣伝しまくる。
だってそのために、二次利用のために投資したんだから当たり前。しかも当たり外れの激しい博打ビジネスなんだから、当たったら当然限界まで儲けようとする。最初からそういうつもりでやっているのである。というかそういうビジネスなのである。
そして制作委員会に名を連ねる主なスポンサーがマスコミ(テレビ局とか電通とか)なんだから、そりゃあ当たればマスにプロモーションしだすのは、火を見るより明らか。
アキバの雑居ビルでひっそりコアなファン向けに売ってればいいよ、みたいなケチなことには絶対ならない。
幼児の目に触れるような過剰なマーケティングが始まる理由
そんなこんなで、ほんとは見ちゃいけない層の目に入ってしまうところでまで派手に宣伝しだすのである。
事業者側にも、あれ?これ本来想定していた顧客以外にも市場広がってるよね?いいんだっけ?と気づいている人はいるはずである。
だけど、学校の風紀委員じゃあるまいし、会社の中でそんないい子ちゃんな正論が通るはずもない。映画のレーティング以外にルールも無いんだから、コンプラ的に何の問題も無いことを前提に、最初からみんなで分かった上で計画してやってるのである。
で、話が元に戻るが、今後それが行き過ぎて、またアニメが有害視される事態になりそうな予感がする。
誤解を恐れず言うなら、本来のあるべきレーティングやゾーニングの意義を無視してマスに宣伝を始める広告代理店やテレビ局が諸悪の根源だろうと思う。
ほんとにクソである。
アニメでも家電製品でも、モノづくりが仕事の人なら分かると思うが、こういうマスコミを始めとした ”集客” が商売の連中は何かあっても責任はとらない。
品質責任を問われるのはいつだって製造者である。製造者は自分で自分の身を守らなきゃいけないのである。
筆者の個人的な意見だが、日本のマスコミが主要な資金の出し手である限り、こういう構図は変わらないのではないかと思う。
そういう意味でNetflix等の外資が資金の出し手になることは、作り手は健全な販路を得て、健全な市場を作る上で強く歓迎すべき話なんじゃないかと思うのである。
以上っす。