気付けば2019年も10月の半ばに差し掛かっていますが、ちょうど2020年卒の学生さんは内定式を終えた時期でしょうか。2020年卒の大学新卒内定率は2019年卒と同水準で推移しているそうで、10月頭の時点で94%だそうです。
職種や企業によっては競争率の高低はあるでしょうし、必ずしも希望に沿った職に就けた人ばかりではないのでしょうけども、まずはこれだけの人達がキャリアの第一歩を踏み出せる準備ができたというのは、素直に喜ばしいことだと思います。
社会人の第一歩を踏み出すための職業選択は、多くの人が当たり前に通る道ですが、職業選択において日本が稀有な国であるというのは意外と知られていない話です。
今回は職業選択という切り口で、日本の特徴について語ります。
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国内で多種多様な職業を選択できる珍しい国、日本
まず、筆者の大学時代、10数年前の就活生だった頃の話。ちなみに筆者は理系で、工学を専攻していました。
筆者の指導教官は大学の生え抜きではなく、民間出身の教授でした。ついでにその教授が就職指導を担当されていて、受け持ちの授業でされていた話が今でも記憶に残っています。曰く、
「ほとんどの皆さんは今後就職活動をされると思います。皆さんは日本に生まれて幸せです。日本にはあらゆる業種の企業があります。例えばヨーロッパでは、自分の国で勉強して学校を出ても、必ずしも自国で就きたい職業に就けるとは限りません。自分の専門に合った職業に就こうと思ったら外国に行かなければいけないことが多々あります。日本にはあらゆる企業があるので、自分の専門に合った職業に日本の中で就ける機会があります。」
就職についての話の流れの中で語っていたことですが、なるほどな、と思いました。電気工学を学べば電子機器メーカーがあり、化学を学べば化学メーカー、製薬会社、機械工学なら自動車、機械メーカー、物性物理を学べば半導体メーカー、情報工学ならSIer、IT系企業等々、思いつく大抵の分野の産業が国内にあり、それなりの規模と数の企業が存在しています。
10数年前の当時と比べると日本経済もだんだんと弱ってきていて、色々と労働環境や経済構造に問題はあるものの、根本的な状況は変わっていません。
ヨーロッパは国内での職業の選択肢は少ない
一方、ヨーロッパだとどうでしょう。イギリスの化学メーカーって聞いたことあります?スペインの半導体メーカーって聞いたことありますか?個別の国で見た時には、日本ほど多種多様な会社は存在していません。現代人の生活は多種多様な産業に支えられていますが、その大部分を自国内で賄えていないということです。そうすると当然、国内で需要が無いから学問も発展しづらくなり、優秀な人がいても国外に出て行ってしまうので、国力が衰えます。
だからこそのEUってことなんでしょう。EUという広い範囲で考えれば域内に一通りの産業があるので、その中であれば専門的な職種に就職が可能であり、学問と産業の双方で向上が可能ですから。
対して日本では、必ずしも自分の希望した職業に就けるとは限りませんが、国内では一切の手段がなく外国に行くしかない、という状況ではないわけです。
そう考えると、あらゆる分野の高等教育が受けられて、そのままその国で就職が可能な国っていくつあるんでしょう?今だと米国、日本、EU?最近だと中国もそうなってきていますね。国連加盟国は193か国です。いかにレアな環境かって話です。
日本は母国語で勉強できる珍しい国
更に付け加えると、大学での勉強のような高等教育を母国語で学べるという点もレアで恵まれた点です。
大学の教科書も大抵は日本語版が用意されています。最先端の研究論文まで読もうと思うと日本語では無理で英語の世界になりますが、既存の知識を得るのであれば日本語のみで不自由しません。
多くの国では自国語で書かれた高等教育の教科書なんかありません。だから外国語で書かれた教科書に頼らざるを得ないのですが、それらは大抵英語で書かれた書物です。なので勉強しようとすると、必然的に英語力が必要になります。
じゃあなんで日本は良い意味でレアな国なんでしょうか。
日本の多種多様な産業は人口が支えている
その理由は、まずは人口が多いということ。
自動車産業なんかは典型ですが、自前で生産をしようと思えば大規模な研究開発投資が必要なのは当たり前の話。その研究開発投資をビジネスで回収できなければ産業として成り立ちません。そのためには不安定な輸出ではなく、まずは国内で一定の量が消費されることが必要です。それが無ければいくら関税をかけて国内産業を防衛しても、そもそも育つ土壌が国内に無いという話なのでどうにもなりません。
人口が少ないと成立しない産業がある
国内で一定規模の市場が見込めないのであれば民間で育てるのは不可能ということなので、国のお金を突っ込んで国策としてやることになります。これは台湾の電子機器産業なんかが典型です。規模の産業である半導体産業を台湾国内だけ供給量の全てを消費しきれるはずもないので、最初から輸出で勝ち切ることを前提に進めるしかないわけです。しかし特定の産業に資本を注入するので失敗したら取返しがつきませんし、多様な産業を持った国にはなり得ない。やっぱりあらゆる産業を育てられるだけの人口があるに越したことはないし、即ちそれは国力に直結するということです。
母国語で教育が受けられるというのも同じ話で、一定の需要が見込まれなければ外国生まれの学問を日本語に翻訳する行為が(税金でやらない限りは)商業として成り立たないわけです。
職業選択の自由を支えてきた人口
職業選択の自由は日本国憲法第22条で保障されている国民の権利ですが、そもそも職業自体が存在しなければ選びようもないわけで、ちょっと話の筋は違うかもしれませんが、現代においては一定以上の人口があって初めて意味を成す権利なのだと言えます。
単に人口が多いだけではなく、活発な消費をしてくれる生産年齢人口が多かったというのもポイント。コストが少なく済むということは、即ちそれだけ競争力を保てるということですからね。
だから人口が減少すると、産業が国内で保てなくなる可能性が高くなります。輸出が伸ばせないような国際競争力が無い分野は特にやばい。
そうすると今後は国内で大学を出ても日本の中で就職できなくなるかもしれない、ということになります。だったら最初から外国の大学に行くのがベターなのでは?ということにもなってきます。
日本の人口は世界で10位
下記はWHOが発表した世界の統計データの2018年版です。人口統計は2016年時点のもので、国別順位で表示されています。単位は百万人で表示しています。
順位 | 国名 | 総人口(単位:百万人)[2016年] |
1 | 中国 | 1,411 |
2 | インド | 1,324 |
3 | アメリカ | 322 |
4 | インドネシア | 261 |
5 | ブラジル | 208 |
6 | パキスタン | 193 |
7 | ナイジェリア | 186 |
8 | バングラデシュ | 163 |
9 | ロシア | 144 |
10 | 日本 | 128 |
11 | メキシコ | 128 |
12 | フィリピン | 103 |
13 | エチオピア | 102 |
14 | エジプト | 96 |
15 | ベトナム | 95 |
16 | ドイツ | 82 |
17 | イラン | 80 |
18 | トルコ | 80 |
19 | コンゴ民主共和国 | 79 |
20 | タイ | 69 |
21 | イギリス | 66 |
22 | フランス | 65 |
23 | イタリア | 59 |
24 | 南アフリカ | 56 |
25 | タンザニア | 56 |
26 | ミャンマー | 53 |
27 | 韓国 | 51 |
28 | コロンビア | 49 |
29 | ケニア | 48 |
30 | スペイン | 46 |
31 | ウクライナ | 44 |
32 | アルゼンチン | 44 |
33 | ウガンダ | 41 |
34 | アルジェリア | 41 |
35 | スーダン | 40 |
36 | ポーランド | 38 |
37 | イラク | 37 |
38 | カナダ | 36 |
39 | モロッコ | 35 |
40 | アフガニスタン | 35 |
41 | サウジアラビア | 32 |
42 | ペルー | 32 |
43 | ベネズエラ | 32 |
44 | ウズベキスタン | 31 |
45 | マレーシア | 31 |
46 | ネパール | 29 |
47 | モザンビーク | 29 |
48 | アンゴラ | 29 |
49 | ガーナ | 28 |
50 | イエメン | 28 |
51 | 北朝鮮 | 25 |
52 | マダガスカル | 25 |
53 | オーストラリア | 24 |
54 | コートジボワール | 24 |
55 | カメルーン | 23 |
56 | スリランカ | 21 |
57 | ニジェール | 21 |
58 | ルーマニア | 20 |
59 | ブルキナファソ | 19 |
60 | シリア | 18 |
61 | マラウイ | 18 |
62 | マリ | 18 |
63 | カザフスタン | 18 |
64 | チリ | 18 |
65 | オランダ | 17 |
66 | ザンビア | 17 |
67 | ガアテマラ | 17 |
68 | エクアドル | 16 |
69 | ジンバブエ | 16 |
70 | カンボジア | 16 |
71 | セネガル | 15 |
72 | チャド | 14 |
73 | ソマリア | 14 |
74 | ギニア | 12 |
75 | 南スーダン | 12 |
76 | ルワンダ | 12 |
77 | キューバ | 11 |
78 | チュニジア | 11 |
79 | ベルギー | 11 |
80 | ギリシャ | 11 |
81 | ボリビア | 11 |
82 | ベナン | 11 |
83 | ハイチ | 11 |
84 | ドミニカ共和国 | 11 |
85 | チェコ | 11 |
86 | ブルンジ | 11 |
87 | ポルトガル | 10 |
88 | スウェーデン | 10 |
89 | ハンガリー | 10 |
90 | アゼルバイジャン | 10 |
91 | ベラルーシ | 9 |
92 | ヨルダン | 9 |
93 | アラブ首長国連邦 | 9 |
94 | ホンジュラス | 9 |
95 | セルビア | 9 |
96 | タジキスタン | 9 |
97 | オーストリア | 9 |
98 | スイス | 8 |
99 | イスラエル | 8 |
100 | パプアニューギニア | 8 |
人口が多いから産業が発達していると前回で述べましたが、これを見ると人口だけが理由ではないと分かります。日本は世界第3位の経済大国とされていますが、人口では10位です。
人口は10位にも関わらず、何故経済規模で世界第3位なのか?あらゆる産業が発達しているのか?逆に言うと、日本より人口が多い国は何故日本ほど経済発展していないのか?
日本が豊かになった理由は?経済大国になった要因は何?
人口だけが直接的な理由ではないことは明らかなんですが、昨今の論調では「日本人は優秀だから!日本の技術は世界一だからに決まっている!」という話が受けが良いようです。しかしこれだけだと何の説明にもなってないですね。ただ思考停止して自分を慰めているだけで、意味を成していない。東南アジアや南米の人達は日本人より劣っていると言いたいのか。何を根拠にそんなことを言っているのでしょうか。根拠の無いただの人種差別です。
何故日本は経済発展できたのか?これには色々な説がありますが、私が知る限りでは完璧な説明はされておらず、周知の知識にはなっていないように思います。歴史についての教育がイケてないってことでもあるんでしょうけども、だからこそ「日本人は優秀なんだ!」的な感情論が蔓延るのでしょう。
また、”人口が多い” ことは日本が経済発展した大きな理由なのは間違いないのですが、そもそも何故人口が多いのか?を語れないと本質的な説明にならないのですが、もっともっと深堀が必要です。
私が知る限りで、納得感のある要因を挙げてみます。それぞれ断片的ではありますが、
- 1.地理的に米が収穫できる気候だから。米以外にも多くの作物が収穫でき、海産物も豊富に獲れた。
- 2.古来より識字率が高かった。
- 3.世界の中でも比較的早くから貨幣経済が発達し、資本主義の発達が早かった。
- 4.他民族からの侵略をうけず、また人口が半減するような規模の内戦がなかった。
- 5.欧米列強の植民地にならなかったので、無茶苦茶な搾取を受けずに社会資本を蓄積できた。
- 6.戦後に軍備に国力を割かず、アメリカの庇護の下で産業発展のみに集中した。
時系列順で挙げましたが、思いつく限りでこんな感じでしょうか。他にもたくさんあると思いますし、ここで挙げた一つ一つをとってもかなり深い話になるので、詳細はまた個別に記事にしたいと思います。
ただ強く思うのは、何事においても現在というのは過去からの蓄積でしかあり得ないということ。過去の出来事や成果は、更に過去からの蓄積によって生み出されるものであり、先人たちが積み上げてきたものの上に今があるという当たり前のことを理解せずに今を理解することはできませんし、ましてや未来を知ることもできないでしょう。
これからの社会がどうなるのか?それを知りたいのであれば、歴史を知ることは有力な手段であると思います。
企業の現場で見る、人手不足のリアル
人が足りなくてビジネスを伸ばせない
筆者の勤める職場は、昨今では珍しく勢いのあるビジネスをやっていて、今後急速に伸びていくことが予想されているため戦略的にかなりの額の設備投資をやっていて、併せて業務量も増えているので人手不足が顕著になっています。
急速に増えている業務量に対応するために派遣や常駐請負、外注といったアウトソースで何とか対応してきたのですが、それらのアウトソース人員が全人員の半数を超えたという異常事態になっていて、アウトソースに頼るのも限界に達しつつあります。
コアな業務は長期的に勤めることを前提にした人員が担う必要があるので、その確保が急務となっており、加えて今後10年程度でバブル入社組を含む人数の多い世代が引退していくため、その補充も必要になっています。
規模の拡大に伴う必要人員増と引退していく人達の補充分を合わせると、今後数年間は年間数百人規模で人を採用していかなければいけないという、今まで聞いたことがないような、まじで?っていう状態になっています。人を増やせなければ機会損失を招いてせっかく投資した生産設備の稼働レベルが落ちて業績が伸びない、という笑えない状況に陥ってしまいます。
ちょっと前まで一生懸命リストラやってたのになぁ。。会社の方向性なんて数年で大きく変わり得るってことです。ましてや細かい景気の先行きなんて読めるはずもない。
日本国内だけではもはや足りない高度人材
そんな状況なので当然新卒採用にも積極的で、かなりの人数の学生をインターンシップを受け入れています。おおっぴらには言えないですが、青田刈りを意図したインターンシップですね。ちょっと話は逸れるんですが、最近の新入社員は凄いです。厳しい世の中ですから、皆さん一生懸命勉強されてきたんでしょう。英語が喋れるとか普通だし、目に見えて年々優秀になっています。それに比べてバブル入社組のおっさんおばはんは。。そんな優秀な昨今の学生に、最初に働く職場として選んでもらう必要があるわけです。
一方で数百人の採用を実現するために、新卒採用だけでやるわけにいかないし、そもそも不可能なので大部分は中途採用で賄う必要があるんですが、これが厳しい。全く思ったように集まらない。この原因はいくつかあるんですが、一番大きいのが、欲しい専門性とキャリアを持った人の人数自体が限られてきているということ。要するに採りつくしたっぽい、ということです。バブル入社組の補充という意味で言えば、50歳を過ぎた人は正直要らないし、できれば30代からせめて40代前半がいい。かつ誰でもいいってわけではないのでそれなりに優秀でキャリアもある人となると、そんな人が無尽蔵にいるわけもない。あれ?日本国内では採りつくしちゃった?じゃあもう頑張っても無理じゃね?という状況なんですね。
ガチでダイバーシティが必要な日本企業のリアル
日本国内では採りつくしちゃった。じゃあどうするかというと、国外で採るしかないわけです。そうすると現実問題として必要になってくるのがダイバーシティってやつです。
ダイバーシティってなんとなくこれまでは綺麗ごと的なイメージがあったと思うんですが、もう綺麗ごとではなく本気で直視しなきゃいけない。
それは「多様性を認めましょうね」なんていうフワッとしたものではありません。多様性を認めるなんて当たり前の話で「終身雇用&年功序列といった日本でしか通用しない雇用慣習ではなく、グローバルスタンダードでの雇用制度」「長期的に働きたくなるような魅力的な業務と勤務環境」「移住先として魅力的な日本」「公用語は英語」といったもっと直接的に「海外の優秀層に来てもらうにはどうするか」という現実的な話です。
できなければ未来はない。それが今の現場のリアルです。
日本がこれからも多様な職業選択が可能な国であるために今したいこと
自分の子供達の世代に、多様な職業選択が可能な、豊かな日本という国を残していきたい。そのためには外国の方々に日本に積極的に来てもらう必要がある。日本で働きたい、日本に住みたい、日本で生活したい、日本はいいところだと思ってもらって優秀な人達を惹きつけないといけない。
そのはずなのに外国人技能実習制度なんていう、ゾンビ企業の延命のために海外から奴隷を輸入するようなことをやってたら子供達に未来はない。
誰もが暮らしやすい、暮らして楽しい、そんな国になってほしいわけです。そしてそうなって嬉しいのは、何も外国の方々だけではなく今日本にいる人達や子供達だって同じです。少しでもその役に立ちたいなぁ。
ではでは。