電機業界と会社の話

新型コロナで飲食店が苦境だと聞いて思った日本社会の仕組みの話

引き続き緊急事態宣言下の東京では、昼間に街を歩いて、通りがかりの飲食店の様子をうかがっても、多くの飲食店は営業自粛中。

そもそも外出自粛の影響で人通りも少ないので、店内にお客はまばら。

悲壮感が漂ってますね。

コロナの影響で、多くの飲食店が倒産の危機に見舞われていると言われていますが、飲食業は国から見捨てられてるんじゃないかと言ってる人もいるくらい。

これ、冗談でもなんでもなく、筆者もそう思います。

中小零細の集合体である外食産業はロビー活動が弱い?

よく言われる話ですけど、

日本の外食産業の市場規模は約26兆円もある一方で、売上規模が一番大きなゼンショー(”すき屋” とか “なか卯” の会社)でも6,000億円、3番目くらいにでかい日本マクドナルドでも3,000億円くらいしかない。

つまり飲食業界を代表するような会社とか盟主みたいな存在がいなくて、中小零細の集合体なんですよね。

他の業界であれば、

自動車業界だったら、トヨタ、日産、ホンダとか、

鉄鋼業界だったら新日鉄、JFEとか、

金融だったら、三菱UFJ、みずほ、三井住友とか、

電機業界だったら日立、パナソニックとか、

通信だったら、NTT、KDDIとか、

その業界を代表するような大企業があります。

何か業界にとっての課題があれば、そういう大企業が所管の省庁で行われる検討会に呼ばれたりとか、色々なロビー活動をやったり、業界の声が国政に反映されるように動いていたりします。

例えば最近の電機業界だったら、通信の5G活用とかIoT事業を進めるための法整備について民間の意見を聴きたい、とか言われて、大きな会社の担当者が経済産業省に集められて意見を述べる場が設けられたりします。

ちなみにそういう会社には、”渉外”担当の役員とか、担当者がいたりします。

自社の意見とか方針をまとめて、そういう場で霞が関に伝え、自社の事業に有利になるように法整備を進めてもらったり、規制緩和を進めてもらったり、国主導での研究開発の枠組みを一緒に作ったりするのが、そういう人達の仕事。

で、そこで見聞きした国の方針とか、他社の考えとか雰囲気を会社に持ち帰って、

「霞が関はこんな感じですね。」

「A社は違った意見だったみたいですけど、空気読んで修正するみたい。」

「だったらうちも方針を合わせんといかんなぁ。」

とかやりながら方向性を修正したりもするわけです。

そんな感じで業界によって程度の差はあれど、日夜ごちゃごちゃやりながら、なんとなくお互いに大きな方向性をすり合わせながら、阿吽の呼吸で物事を進めるのが、いかにも日本って感じの事業の進め方だったりするわけです。

霞が関はそうやって各業界の意見を吸い上げて、法整備とか、規制とかの枠組みを作るのが仕事なわけですが、忙しい官僚の側からすると、当然話をする相手は少ない方が効率は良いでしょう。

官僚の立場になって想像すれば分かりそうな話ですけど、何千、何百の会社を相手に話を聴くなんてことやってたら、時間も人員もいくらあっても足りないわけで、現実問題として数社か、せいぜい数十社くらいとしか付き合えませんよね。

だから普通は業界を代表するような会社を集めて、その業界の方向性についての意見を募るわけです。

ところが中小企業の集合体である外食産業にはそれが無い。

なので普段からロビー活動を積極的にやる企業が無く、霞が関の官僚側から意見を聴こうにも聴きづらい状況になっているわけです。

だから国政にも意見が反映されづらい。

だから今回のコロナ騒動みたいな事件が起きても、助けてもらいにくいし、政治家からしても便宜を図ったところで票にならないので無視されがちになる、とこういう構造になっていると。

和牛商品券” なんていう、普通の人が聞いたらびっくりするような支援策が比較的速い段階で出てくるのも、普段からJAと農林水産省が密に付き合ってるからなんだろうなー、ってのも容易に想像がつく話です。

自由の代償に便宜を図ってもらう?

じゃあ普段からちゃんとロビー活動をやってれば、いざという時に助けてもらい易くなるの?っていうと、その通りなんですけど、代わりにしがらみも増えるわけです。

例えば、筆者は電機メーカーに勤めてるんですけど、コロナで緊急事態宣言が発令された際には、即出社率を30%以下に抑えろという話になり、その日から「電機業界の他の会社は何%で、うちは他に比べて遅れてる」「すぐに対応して必要な措置をとるように」とか、まるで業界内で出社率削減&テレワーク化の競争をしてるような雰囲気になって、有無を言わさずにテレワーク化が進みました。

これって政府が、”接触8割削減が目標、最低でも7割削減” という方針を発表し、緊急事態宣言が出ている地域の企業に対して、職場への出勤者を最低でも7割減らすように要請が出たのが理由。

あくまで “要請” ではあるんですけど、大手企業がこういうときに協力しないとかあり得ないわけです。(そもそも社会的な立場もあるので、今回の要請を無視するとかあり得ないんですが。)

どんな事情があろうと、空気を読んで最優先で対応するのが当たり前。

コロナの話に限らず、空気読んで協力しようね的な話はちょくちょくあり、普段からロビー活動をやってて便宜を図ってもらってるんだから、逆らうとかあり得なくて、逆らったら後でマジでいじめられます。

そんな感じで、国に便宜を図ってもらおうと距離を詰めてると、良くも悪くも自由が無くなります。関係が深くなれば天下りを受け入れなくてはならなくなったりとかもします。

よく大企業の社外取締役に経済産業省出身の人がいたりしますけど、あれって天下りだったりします。公然とは言ってないけど。

国にお金を出してもらって事業をやるってことは
独立して事業をやる上での障害になったりもします

残酷な日本的なムラ社会と自己責任論

そうやって持ちつ持たれつの関係が積み重なって、 “業界ムラ” が形作られていくわけです。

ムラ社会の一員であれば、色々なしがらみをお互いに抱えつつも、いざという時に助け合うのが日本人的な常識でしょう。

一方でムラ社会の外の人間には、とことん冷たいのも日本のムラ社会の特徴。

ムラに何の貢献もしてない人を何故助けなくちゃいけないんだっていう理屈は、学生でも社会人でも、分別つく年齢の日本人なら、言われればなんとなく分かるというか、世間ってそんなもんだよね、って感じる話ではないかと思います。

みんな身を切って貢献してるのに、そうじゃない奴が都合のいいときだけ助けを求めるなんて不届き千万である、っていう考え方が、いわゆる自己責任論の根源にある考え方なんだろうと思います。ムラ社会的な理屈で国の運営をやってるってのも、ずいぶん低レベルな話ですけどね。

筆者は飲食業界の人間ではないし、学生時代のアルバイトで関わった程度ですが、そのときに出会った人達は「いつか自分の店を持つんだ」という目標を持った人が多かったように思えます。

しがらみの中で生きることよりも、より自由に、自分の裁量で生きることを志向する人達が多いんじゃないかなぁと。だから中小零細企業が多い業界になるんだろうし、そもそも自由であることが魅力の業界なんじゃないかなぁと思うわけです。

だからコロナで倒産するのも自己責任だ、なんてのは暴論ですよ。ただ、そういう傾向があるから、こういう非常事態の時に切り捨ての対象になっているのは事実なんでしょう。

どこにも書かれていない社会の仕組みを語ってあげられる父親でありたいよね

ちょっと話は飛びますが、こういう話ってどこかに明文化されてるわけじゃないし、公然と語られることも無い話で、大人になって働き出してから気付く話ですよね。

でも実際に社会で働く上では、重要な話だったりするわけです。自分一人では到底コントロールできる話じゃないし。

できれば就職活動の前にこういう切り口で社会を語ってくれる人がいたら嬉しかったなぁ、と思いません?自由に仕事してる会社ってどういう業界の会社?どういう仕事?自由じゃない働き方ってどういうこと?みたいなことを、生々しく語ってくれる人。

少なくとも自分の子供が職業選択に悩んだときには、そういう話を語ってあげられる親でありたいなぁ、と思う今日この頃。

今日はここまで。ではでは~。

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