電機業界と会社の話

撤退を決めたホンダF1と決められない東京オリンピック

ホンダがF1への参戦終了を決めたというニュースを見て驚いたとともに、この話を決めた経営者の苦労を想像してしまった。

<外部リンク:yahooニュース「ホンダ、F1撤退ではなく「参戦終了」へ…「大切なDNA」を続けられない“最重要課題”とは?」

筆者の仕事は会社の経営スタッフである。普段から意思決定に近いところにいるし、時にはその意思決定のサポートもしている。

そんな中で痛感しているのは「何かをやめるのは難しい」ということ。

「戦略とはやらないことを決めることだ」という話もあるけど、ほんとにその通りだと痛感している。

「やめよう」と言ってあげるのが経営者の仕事

筆者が尊敬する経営者に

「とことんやります、やり続けます」と言うのが当事者の仕事、

「もうやめよう」と言ってあげるのが経営者の仕事、

と言われたことがある。マジで至言だと思う。

たぶん現場からすると、

  • 「やめるなんて簡単じゃないか、やめると言えばいいだけの話なんらから。始める方がよっぱど大変」とか
  • 「新しいことをやろうなんて話が経営層から出てこないじゃないか」とか
  • 「自分達から提案してもケチな経営層がお金を使うことを嫌がってOKしてくれない」とか
  • 「もうちょっとで上手くいきそうだったのに理解の無い上層部に止められた」とか

そういう気持ちの方が強いだろうと思う。その気持ちは全然間違いではない。だからこそ、やめることを ”決める” のは難しいのである。

結婚より離婚の方がエネルギー使うって話

例えば個人レベルの話を例に挙げると、結婚より離婚の方がより大きなエネルギーを使うとよく言われている。

筆者は離婚したことはないが、そうだろうと思う。

前向きな気持ちで前向きな話に取り組むのであれば、だいたいの場合において周囲の利害関係者の理解も得やすく、進めやすいのである。

結婚に大反対されて大変だということもあると思うが、逆に言えば反対意見を潰すか、反対している人を説得できればクリアできる。つまりやるべき課題は明確だし、難易度も明確だから対応しやすいし、何より当事者(結婚する二人)が前向きな意見で一致団結しているだろうから、進めること自体は難しくないのである。

しかし、離婚となるとそうはいかない。

  • 財産分与どうするの?
  • 子供の親権は?養育費は?会う頻度は?
  • 今住んでいる家はどうするの?どちらかが出ていくの?
  • そもそも再構築はできないのか?両者で離婚する意思は本当に固まっているのか?
  • 世間体が悪いからやめてくれと言う親族の理解を得なきゃいけない

等々、全然前向きじゃない話を負の空気が充満する中で一つ一つ利害関係者で合意して、決めていかなければいけない。

全然モチベーション湧かないんだけど、きっちり決めなきゃいけないという、極めてエネルギーを要する話なのである。

難しいんだけど全然美味しくない”撤退戦”

何でもそうなんだけど、始めたり前向きに話を進めることはチームの動機付けを含めてやり易いし、それらを正当化するストーリーは描きやすい。

利害関係者へ説明する上で”ストーリー”は絶対に必要である。しかし ”やめる” ”撤退” のストーリー構築は非常に難しい。

筆者も事業撤退の当事者として仕事をしたことがあるが、

  • やめることでお客さんに迷惑かからない?迷惑かけて会社の信用を失わないか?迷惑かけないようにするにはどうすればいい?
  • 部品の発注先とか協力してくれている会社が損失被ったと言ってケンカになる可能性は?ケンカにしないためにはどうすればいい?
  • 従業員の雇用はどうなる?次の行き先はちゃんと決まるのか?
  • 工場とか生産設備を閉めて、地域に迷惑かからないか?迷惑かけないための対策はできているか?
  • 資産を処分したときの経営数値へのインパクトは?
  • 開発した技術は社内で転用可能か?もしくは転用可能な状態になっているか?
  • 株主への説明はどうするの?
  • メディアや世間への発表や説明は必要か?説明する場合はどう説明する?
  • これらに対応するのにそれぞれいくらかかるのか?

などなど、やらなきゃいけないことは山のようにあって、どれもこれも暗い話だし、相手からいい顔されない、批判を覚悟しなきゃいけない話ばっかりである。

誰が責任取るんだコノヤロー!という罵声も飛んでくる。

会社が大きくなれば社会的責任も大きくなるので、共産党あたりが嗅ぎ付けてきて政権批判の具にするみたいなことも起こる。ってか実際筆者が関わった件が国会で取り上げられそうになったこともあった。そういうおかしな輩に利用されないためにも、利害関係者に納得してもらって丸く収める必要がある。

でもステークホルダー全員が納得する撤退ストーリーって描けると思う?無理である。少なくとも100%の納得は無理である。だから優先順位をつけてストーリーを描かなきゃいけない。

非常に難しい仕事のわりに、上手くやっても褒められることはほぼ無く、それどころか多数の人からのヘイトを集める、全く美味しくない仕事なのである。戦における殿(しんがり)みたいなものだ。

だからやめる意思決定を避けたり、先延ばしにする経営者は多い。

そして何かをやめないと新しいことは始められない。やめる決定ができないことが、日本の活力を削いでいる一因なのである。

撤退を決めたホンダF1と撤退を決められない東京オリンピック

で、今回のホンダのF1撤退の決定の話。

年間数百億の予算をかけている活動なので、社内外合わせて大勢の人が関わっているのは間違いない。

そしてホンダにとってのモータースポーツって祖業みたいなもんだし「大切なDNAの1つ」とまでいわしめている事業。

反対意見や批判は多かっただろうし、決めるのは相当しんどく、辛い決定をされたであろうことは容易に想像できる。

この決断が早かったのか、遅かったのか、筆者には分からないけども、八郷社長は正しい経営者の仕事をされたのだと個人的には思っている。

一方で3兆円の予算をかけた超巨大公共事業、東京オリンピック。こっちはもう強烈である。

<外部リンク:yahooニュース「組織委・森会長、五輪中止は考えず「神にも祈るような気持ち」…開催まであと1年」

中止とかまったく考えてなくて、来年になればすべてが解決すると神に祈るような気持ちでやっている、という。

今明言する必要は無いにしても、思い返せば来年への延期を決めたのはトランプ大統領に援護射撃をもらった安倍総理だし、自分が意思決定する立場だとか微塵も思ってないんでしょうね。元々意思決定をしてもらうつもりで就かせてもらったわけではなく、誰も彼に期待していないってことなのか。

他にも自分では決めないくせに文句だけ言う○池知事とかね。やばくない?まじで。

一応国民的な行事なのに、こうも自分のことしか考えてないトップのクソっぷりを見せつけられるのも非常に気が滅入る。

こういう分かりやすいクソの中でリーダーシップをとって決断できた安倍総理は比較的マシなリーダーだったことは事実でしょう。決めてくれる人がいてよかったねってことをどれだけの人が理解できているのか。

やめることを正しく決められる人は貴重だし、今の日本に必要な人材である。強くそう思う。

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