筆者は製造業の会社で働いておりまして、事業計画の作成を仕切ったりするのがお仕事です。製造業って言っても昨今はファブレスで設計だけやってるところとか、ファウンドリ専業とか色々な事業形態がありますが、今回話題にしたいのは自社で工場を持って販売までやっているオーソドックスな製造業。それも比較的大きめの会社をイメージしています。
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ダメな会社の事業計画あるある?
先日、某日の丸○○の中の人と食事をしたんですよ。やばいやばいと言われ続けているあの会社です。
まあ夢みたいな計画を作っているようなんですが、それがなんというかこう、ダメな製造業の事業計画あるあるだなー、って感じ。
ここに限らず、ありがちな日本の製造業の事業計画あるあるをまとめてみたいと思います。
ダメそうな会社の事業計画の特徴<その1> 販売数量は増えないけど売上は上がる
何が言いたいかって要するに商品単価が上がるって言ってるんです。
大抵の会社の事業計画では、将来は売上が上がることになっています。「昨年より売上上がります」って言わないと株主に怒られるし、事業に将来性が無いと思われて株価も下がりますから。
売上高ってのは、販売数量×単価 です。
販売数量を上げようと思うと、生産数量を増やさないといけませんよね?
現時点で工場がフル稼働しておらず生産能力に余裕があれば、生産数を増やすことは可能です。しかし大抵の場合、煮詰まった製造業が余分な生産能力なんか持ってるケースってほぼ無いです。あったとしたらさっさと埋めろって話でとっくに埋まっているでしょうし、埋まってなければとっくにリストラの対象になってるでしょうから、そんなもの存在しようが無いのです。
生産効率を上げて生産能力を上げて生産数量を上げることも可能です。しかしそれも多少なら効きますが、大幅に上げようと思うと結構な技術革新が無ければ無理な話だし、そんな技術革新の余地が残されている分野ってのもレアケースです。大抵は技術的にも煮詰まっているってのが日本のレガシー製造業あるあるでしょう。
もしくは設備投資をして生産能力を上げても良い。需要が伸びることが確信できていれば新しい工場を作るっていうのは十分にあり得る話でしょう。しかしまあ昨今の日本の設備投資の伸び無さが物語っていますが、そんなこと怖くてできないって経営者が大半でしょう。無理して強行しても、どこぞの白山工場みたいなことになったら目も当てられないですから。
ということで事業計画で売上が伸びます~という美しい絵を見せようとしたら、単価を上げるって話にするしかわけです。数は増やせませんから。
でも単価を上げるってそんな簡単な話じゃないです。だって昨日まで1,000円だったものに今日から1,500円払えって言われたらイヤじゃないですか?質が変わらないのに値段だけ上げるって言われたらイヤですよね?じゃあ要らないってなって販売数量はむしろ落ちるのが普通です。日本人がケチだとかそんな話じゃなくて、値上げしたら販売数量は落ちるし、値下げしたら販売数量は増えるってのは万国共通です。
だから値段を上げる話をしようと思えば、質や性能を上げる話を一緒にするのは必須。そしてテクノロジーが売り物の製造業の場合は、それは “新技術による新商品” を意味します。
ダメそうな会社の事業計画の特徴<その2> 新技術&新商品の垂直立ち上げ
で、その “新技術による新商品” ですが、売上を上げるためにそれを “垂直立ち上げ” とか言って事業計画の目玉みたいな扱いにされます。
でもそんな経営上の都合で”新技術”なんてものは立ち上がりません。大勢の優秀なエンジニアが一日も早く世に出したいと一生懸命試行錯誤しながら開発しているわけで、そこには妥当なスケジュールってものがあります。
それを「すぐに売上上げたいから前倒ししてやれ」って言いだすのが、イケてない経営者あるある。
現場のエンジニアが「いや無茶言わないでくださいよ。そんなスケジュールではできませんよ」って言っても「無理ってのはどういうことだ。社運がかかってるんだぞ!できない理由を説明しろ!できないことを証明しろ!」とか経営層が無茶を言ってきて、無理やりできるってことにされてしまうとか、煮詰まった製造業あるあるじゃないかと。で、結局スケジュール通りに進まず、売上にもならず、言い訳を考えるのに時間を使わされるってところまでがセットね。
“日本は高い技術力を誇る国”ってことになっているので、スケジュールの前倒しとか余裕でしょ、みたいに本気で思っている経営層とか昨今普通にいます。
試作したら歩留1%の状態で「ゼロじゃないってことはできるってことじゃん?できたのを繰り返せばいいんだから半年後には量産できるよね?」とか言い出した役員を目の当たりにしたときはマジでビビりましたね。
科学リテラシーが無いのか、その場を取り繕う話ができればそれで良いのか。両方な気がするなぁ。。
ダメそうな会社の事業計画の特徴<その3> あれ?去年と同じこと言ってない?
そんなこんなで無理な計画を立てるもんだから、結局実現しないわけです。だって無理なもんは無理です。根性論で実現するほど現実は甘くないですよ、当たり前ですけど。
しかし計画を立てている人達は「だって仕方ないじゃないか。それしかないんだから。現場の危機感が足りないんだよ。」って思っているんですよね。間違ったことをしてるなんて微塵も思ってなくて、正しいことをやってると思ってる。だから毎年同じようなことを繰り返します。
反省するって、結構高度なことです。自分が間違っていたと確信できないと人間は反省なんかできませんから。
こういうことが往々にして起きているので、会社の事業計画とか実績ってのは単年度だけ見てても見えてきません。2~3年分くらいを眺めてみて始めて中身が分かります。
現場の人間の感覚が一番正しい
以上、比較的大きめの日本の製造業をイメージした話。こういう事業計画云々とか、上の方でやってる話って細かい機微までは現場まで伝わってきません。でも現場で感じる違和感はあると思うんです。「うちの社長、なんか変なこと言ってない?」と思うようなら、たぶんそれは間違ってないです。
それはつまり現場の当事者が腑に落ちない計画ってことですから、まともじゃないんです。どこかに嘘がある。
現場の人間だから与えられた情報が少なくても、自分の感覚を信じれば間違いないと、筆者はそう思います。
そういう見極め方ってのは大事だと思うのです。
今日はここまで。ではでは~。