電機業界と会社の話

ビジネスのD2C化で変わる世の中

誰が流行らせたのは分からないが、”D2C” って言葉が少し前から流行りだしている。

一時期は色んなところで使われていたが、最近は少し落ち着きつつあるようで、今は主にアパレルとかコスメ業界で “D2C” をうたったブランドが増えているように思う。

この場合のD2Cの意味は、”製造者が小売事業者を挟まずに直接消費者に販売する” という意味で使われている。

間に業者を挟まないから安いですよ、という話をカッコよく言ってるのだ。

うさん臭い “D2C”

それって昔からある、“メーカー直販” “製造直売” “だから安い!” みたいなのと何が違うん?と聞きたくなるでしょ?一緒だ。なんも変わらん。

ちょっと前だとSPA(製造小売)と一緒。そういう意味ではユニクロだってZARAだってD2Cでしょう。

なんというか、アパレルやコスメにありがちな、とりあえず流行りのキャッチフレーズ使っとけばええんやろ?という感じがにじみ出てて逆にくそダサい。

新しいことをしてますよ、というイメージを醸し出すために流行りの横文字を使ってるのに、やってることは本質的にはこれまでと全く同じという。

隠しきれない加齢臭がなんとも痛々しい。

そもそも “D2C”はアメリカ発の言葉のようなのだが、元祖のEverlane、Allbirds、Warby Parker、Casper、とかアメリカのブランドが成功事例としてやたらと持て囃されていて、要はオンラインをメインの販路にして成功した企業のことを “D2Cの成功事例” として怪しいコンサル屋さんが仕事欲しさに宣伝してるように見える。

たぶん日本のアパレルやコスメ業界の人達はそれに乗っかってる、というかコンサル屋にカモにされてるんだろう。出羽守商売というか、よくある話である。

ここまで言っといてなんですが、ごめんなさい、今日はアパレルやコスメ業界の悪口を言いたいわけではない。

で、この怪しげな “D2C” ってフレーズだが、一理あるというか電機業界にいる筆者から見てもこれまでと大きくビジネスの構造を変えている側面があるな、と思っていて今日はそれを筆者なりに解説してみたい。

変わったのは ”集客” プロセス

D2Cうんぬんの前に、まず理解しておきたいのは、インターネットやSNSが発達したことで “集客のやり方がガラッと変わった、もしくは変わりつつある” という時代背景。

この ”集客方法が変わった” というインパクトがデカい。めっちゃデカいのだ。

別にD2Cという言い方にこだわる必要は全然ないのだが、D2Cというフレーズがそれを分かりやすく表現しているからバズったんだろう。考えた人は頭いい。

どう変わったのかというと、要はモノを売るときに ”小売店” と “マスコミ” を通さなくてよくなったということ。

小売店を通さないから商品の値段が安くなるのが製造直売のメリット、と考えられがちだが、実は ”マスコミ” も通さなくてよくなった、というのがポイント。

アパレルやコスメに限らず、電化製品でも、たくさんモノを売りたいときには広告を出して宣伝をする。

そのときは広告の枠を持っている電通とか博報堂といった広告代理店にお金を払い、広告を出稿してもらうのが従来の一般的なやり方だ。

で、電通とかの広告代理店は、クライアントの要望に従って広告を作り、出版社やテレビ局にお金を払い、雑誌の広告とかテレビCMにその広告を流す。

お金をもらった出版社やテレビ局は、たくさんの人に見てもらえるように誌面や番組を作る。

たくさんの人に見てもらえた方が広告主(元々モノを売りたいと言って広告代理店に依頼してきた会社)はたくさんの人に宣伝できるので、喜ぶ。

つまり発行部数や視聴率が高い方が優秀なテレビ局や出版社だと評価されて、広告主は多くお金を払ってくれて儲かるようになる。

これが従来の ”マスコミを使った集客” プロセスである。

マスコミってのは広告主のために “集客” をやっているのである。”大勢の消費者を集める、つまり集客” できてなんぼの商売なのである。

そのために消費者の関心を煽ったり、見栄えの良いタレントを起用し番組を作るのである。

広告主のために宣伝してるんだから、広告主には絶対に逆らえない。当たり前の話である。彼らのお客さんは広告主である。

ビジネスプロセスからマスコミを排除できるようになった

ちょっと話が反れるけど、テレビや新聞は報道とかジャーナリズムをやってるとか偉そうなことを言っているが、あんなもんウソに決まっている。

ウソと言うか、高尚なことをやってるように見せかけないと信用してもらえないから、高尚なことを言ってるフリをしないといけないのである。

やってることは広告主のための ”集客” である。

だからお金を払ってくれてる広告主に不利な報道は絶対できない。

アメリカのニューヨークタイムズなんかは、もらっている広告費全体のうち、一つの広告主が占める割合を1%以下にしないといけない、という決まりがあるそうな。

広告主から圧力がかかっても、1%くらいなら切れるから。切っても経営を左右するリスクにはならないので、別の広告主を探せばよい、となる。

日本のマスコミにはそういう決まりは無い。だから大きな広告主には逆えないし、逆らわないのが日本のマスコミ。これがマスゴミと呼ばれる理由の一つである。

で、話を戻すと、つまり従来はモノやサービスの作り手が商品の魅力を多くの人に伝えようと思ったら、マスコミに頼るしかなかったのである。

それが今はネットやSNSを使えば、必ずしもマスコミに頼らなくても、消費者とコミュニケーションができるようになった。

もちろんプロである広告代理店に依頼することも可能だが、今までのように ”絶対” ではない。

マスコミを通さなくても自分で商品の魅力や、どう使って欲しいとか、活用方法とか、作り手の思いとか、どこでどう作っているとか、そういうことを低コストで伝えることができるようになったのである。

これ、小売店を通さなくてよくなったことと合わせて、産業構造の変化と言ってもいいくらいの変化なのである。

何故かというと、モノを売るときにかかっている集客コストが物凄くデカいから。

ビジネスで最重要な ”集客” にかかるコスト

アパレルだと、小売店がとっているマージンがだいたい(最終製品価格に対して)30%くらいだと言われている。これが高いとか安いとか、そういう個人の感想はどうでも良くて、重要なのは ”事実として30%かかっている” ということである。

これ、電機業界の目線から見てもだいたいこんなもんである。モノやメーカーによって違うが(例えばゲーム関連の製品は小売店のマージンは低いのが通例だったり)、家電製品で小売店がとっているマージンはだいたい30~40%くらいが平均的な値である。

アパレルと大して変わらない。たぶん他の業界でも似たような水準なんじゃなかろうか。

小売店だって店に商品をただ並べておけばモノが売れるなんてことはなくて、お客さんに来てもらうために内装を綺麗にすればお金はかかるし、人通り多い一等地にお店を構えれば高い家賃が必要だし、一からお店を建設するなんてことをすれば莫大な建設費がかかるし、電気代、人件費、販促グッズも必要だし、小売店として広告を出したりもする。それらを合わせれば最終製品価格の30~40%くらいとらないと商売が成り立たないってことなのである。

で、なんのために小売店はお金をかけてこんなことしてるのかというと ”集客” のためである。よそのお店よりたくさんのお客さんを呼び込んで集客して製品に触れてもらうのが小売店の仕事なのである。そのためにお店を綺麗にして、人が来てくれる場所に出店して、店舗スタッフを配置している。人の来ないお店にメーカーは商品を卸さないし、マージンなんか払わない。小売店のやってる仕事も本質的にはマスコミと同じで ”集客” なのである。その集客に30~40%くらいはかかるということ。

それくらいかけないとモノが売れないから、必要だから出費してるのだ。

この30~40%の店舗での集客コストに、広告宣伝のためにマスコミに払っている集客コストを合わせるとどうなると思う?ケースバイケースだけど、普通に考えて40~50%くらいになるのは想像できるはず。

消費者からすると買ったときの値段の半分弱は集客コストを払わされている、ということになる。(それが多すぎるとかバカバカしいとか、そういう話ではなく、今の世の中の商売の構造がそうなっている、というただの事実である。)

メーカーの利益を差し引くと、ほぼ製造原価と同じくらいの金額というイメージである。

お分かりだろうか、モノを売るときの集客には、モノを作るのと同じくらいの莫大なお金がかかっていて、お金がかかっているということはそれだけ多くの人間が関わっているということである。

でかい金が動いてるってことは、当然社会を動かす力も大きい。それが ”集客” というビジネスプロセスなのである。

ということで集客の方法が変わるってことは、世の中の半分弱くらいを占めるビジネスのプロセスが変わるってこと。めちゃめちゃでかい話なのだ。

付け加えるならこれらをかっさらっていこうとしているのがGAFAだったりするのだが。

D2C化の背景にある社会構造の変化

ということで、D2Cという一部業界の販促キャッチコピーと化している単語だが、背景には社会構造が変わるくらいインパクトのある話が進んでいるのである。

まあ消費者からすれば、どこで誰からいくらで買うかが少しばかり変わるってだけの話なので、あんまり大した話ではないと思う。

ただ、普通の人は消費者であると同時に生産者でもあるので、どこかで関係する話だろうから、知っておいて損は無いと思う。

それに、マスコミも儲からなくなれば構造改革は避けられないだろうし、小売店が変わることになれば街並みも変わるので、生活者としても関係のある話だろうと思う。

以上っす。

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