先般の台風19号による甚大な被害に合われた方々に心よりお見舞い申し上げます。
多摩川の氾濫に伴ってタワーマンションが林立する武蔵小杉駅周辺でも冠水被害が起き、停電や断水で大変な状況にあるようです。
鼻持ちならないお金持ちの住居の象徴のような扱いをされ、こういうときに何かと話題になる武蔵小杉周辺のタワーマンションですが、今回は筆者が以前から考えていたタワーマンションの良い点、悪い点をまとめてみました。
阪神・淡路大震災の教訓
筆者は1995年の阪神・淡路大震災当時、直接被災はしなかったものの被災地の近隣に住んでおり、今でも当時の様子を思い出すことがあります。その時に知った話で、今でも何故か鮮明に覚えているのが「倒壊していない最新のマンションでも、水道や電気等のライフラインがダメになったら高層階では生活することは実質不可能」という話。この話、当時報道されていたのか、どこで語られていたのかはよく覚えていないのですが、強烈に記憶に残っています。
どういうことかというと、水って生活する上で絶対に必要ですよね?地震で水道が止まると、近隣に汲みに行ったり、給水車にもらいに行く等しなければならないわけですが、外で得た大量の水を抱えて家まで帰らなければなりません。そのとき当然電気も止まっておりエレベーターは動かないので、マンションの高層階に住んでいれば大量の水を抱えて階段を上らなければならないわけです。場合によっては何十キロという重さの水を、です。それも一日に何回も。水以外にも食糧も調達したものを同じように階段を上って運ばなければいけません。
高層階になればなるほど当然階段を上り下りする労力は加速度的に増えていきます。で、その高層階って具体的に何階かというと、たしか5階だったと記憶しています。高層って言っても意外と低く感じますよね。しかし5階を階段で上り下りするって普段の生活でも滅多にない話ですし、お年寄りには相当きついでしょうね。(たしか)5階以上の階に住まわれていた方の多くはギブアップし、避難所や仮設住宅での避難生活をされていたそうです。
この話を念頭に置きつつ、災害でライフラインがダメになった際、ご自分がタワーマンションの20階とか30階とか40階とかに住んでいたらと考えてみてください。普通に考えたらライフラインが復旧するまで住み続けるのは無理でしょう。
それくらい重要な話なんですが、震災以来この話が世間に浸透しているようには思えなかったんですよね。新築マンションの宣伝では耐震構造や免震構造がしっかりしてるから安心ですよ、地震でも倒壊したりしませんよ、という話は全面に押し出してくるけど、いくら建物が頑丈でもライフラインが止まったら無意味なんですよ。「独自の貯水槽と災害時でも確実に動く電源とポンプを備えているからライフラインが止まっても大丈夫!ライフラインが止まった時への備えは万全!」なんていう売り文句を聞いたことありますか?筆者はありません。
この「ライフラインが止まった時どうなるか」が知られていなかったから、それらへの対策がセールスポイントにならなかったんでしょうね。セールスポイントにならないなら、わざわざコストをかけて対策なんかする必要ないですもんね。
ディベロッパーもメディアも「震災の教訓を生かして」とか立派なことを言う割に、そんなのも所詮は良い事言ってますよというアピールであって、目先の利益確保が全てですから。余計なことしたら上司に怒られますよ、逆に。
タワーマンションの抱えるリスク
よく語られている話ですが、タワーマンションを買うことのリスクを挙げると
1.大規模修繕工事の実績が無い(実績が乏しい)ので、いくらかかるか分からない。
これはタワーマンションができてからずっと言われ続けてきましたが、最近になって初期に建てられたタワーマンションの大規模修繕が始まり、その総費用100億円超なんて言われています。まあマンションの大規模修繕工事の費用が足りないなんてことは昔からあった話ではありますが、その額が未知数であるというのがリスクなわけです。
2.オーナーが数百人規模でいるため、合意形成が必要なマンション管理の軌道修正が難しい(実質不可能?)
筆者の住むマンションは総戸数40戸弱の中規模マンションなのですが、その規模でも物事を決めるのは数年単位でかかります。駐車場の利用料が周辺相場より高すぎて利用されておらず、下げて収入を得ないといけない、という当たり前の話ですら決めるのに2年ほどかかりました。タワーマンションて一棟で総戸数500~1000戸っていうレベルですからね。2~3棟あれば1000~3000戸?文字通り桁が違います。株主総会か何かかな?管理組合は相当な力量がないと仕切ることすら難しいでしょうね。
3.中古で売りに出され始めると新築時よりも価格が下がるので、当初の住民より所得レベルが低い人達が入居してくる。
これも昔から「スラム化する」とか言われていますが、どうなんでしょう。今のところ初期に建てられたタワーマンションがスラム化したなんて話は聞いたことがありません。短期間で大きく住人が入れ替わることも考えづらく、最初に入居した住人が居る間はスラム化なんてしないでしょうが、結局のところその初期の住人が高齢化し亡くなるような時期にならないと分からないってことでしょう。
とまあ、主なところを挙げるとこんな感じでしょうか。他にも健康面でリスクがあるとか、低層階と高層階で収入格差がある云々とか、色々とリスクになり得る話はたくさんあるんですが、要するに「実績が無い」のだからリスクはあって当然です。今後資産価値が上がるのか下がるのか、どうなるのかは全く分かりませんが、全てはそれらのリスクをとって買った人に帰属する話です。
売れればそれでOKのディベロッパーと住人を増やしたい自治体
しかしですよ、自然災害への対策もおろそかな建物を、そのリスクすら明確に説明せず目先の利益のために売り続けるディベロッパーと、それを許す行政や自治体って何なんでしょうね。過去の地震災害の経験で分かっているはずのことなのに対策できてないんですからね。
建物自体の耐震免震構造のみならず、ライフラインが止まったときの対策が自治体含めてちゃんとできているか、近隣の川の有無、標高、等々買う側が身を守るために確認すべき項目はどんどん増えていっているように思えます。
タワーマンションの良いところ
タワーマンションの悪いところばかり挙げてしまいましたが、筆者はタワーマンションの悪口が言いたいのではなく、何事にも良い所と悪い所があるわけで、特にある一点においてはタワーマンションは極めて優れていると思っています。
それは何かというとセキュリティです。
当たり前の話ではあるんですが、入口は何重にもオートロックになっていて、加えてコンシェルジュが監視していますし、タワーマンションの高層階に空き巣も下着泥棒も入るのは容易ではありません。壁を伝って忍び込むとかスパイダーマンじゃないんだから、絶対ではないにしろ普通に考えて無理でしょう。
お金持ちや有名人等、セキュリティが必要な人には大変有用な住宅です。実際、普通のマンションに住んでいた有名Youtuber○○氏が、窓に石を投げられたので外をみたら「〇〇ほんとに居た!」なんて言われて怖い思いをしたことがあり、それを機にタワーマンションに引っ越した、という話もあるそうです。中目黒駅前のタワーマンションに芸能人がたくさん住んでいる、というのも有名な話です。
アメリカだとお金持ちは壁と門で囲まれて、いわば要塞化ゲーテッドコミュニティと言われる居住区を作って生活しています。高さ3メートルに及ぶ鉄条網付きの壁に囲まれ、300人以上の私設警備員が敷地内を巡回、門は電子施錠でレーザーセンサーと監視カメラが付いた高度な警戒システムで守られ、中にはプールやテニスコート、ゴルフコースまで備えた、過剰としか言いようのないような要塞化された居住区です。
日本にそんな広大な要塞を作るのは現実的ではありませんが、安全を確保したいというニーズは確実にあるわけで、それに応え得るのがタワーマンションということなのではないでしょうか。最新のタワーマンションは内部に居住者専用のスポーツジムやプール、キッズルームやシアタールーム、パーティールーム等の公共空間を備えたいます。そのようなタワーマンションは日本版のゲーテッドコミュニティと言ってもいいような、圧倒的なセキュリティを備えた閉鎖居住空間なのだと思います。
まとめ
ある種のステータスの象徴のような存在になっているタワーマンションですが、それ以上にセキュリティの面ではこれ以上無い有用性があるわけです。当たり前のことではありますが、何事も目的を明確にしてそれに応じて適切な対価を払うというのが、賢い消費者であるために必須条件なのだと思います。
まあそれ以前に、一般人に過ぎない筆者にはタワーマンションなんて縁遠い存在ではありますが。。
ではでは。