今回は先日の記事で書いた通り、ストレッチ素材として代表的なポリウレタン混の生地で作られた衣類とその劣化について書きたいと思います。
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現代生活に欠かせない 便利な伸縮する素材
伸縮性のある生地でできた衣類は現代生活にはもはや欠かせないものになっていますよね。
筆者も良くお世話になっているスキニーパンツとか、伸びる素材じゃないと、とてもじゃないけど履けません。
論争、と言っていいのか分かりませんが、ポリウレタン混の衣類は便利な一方で嫌う方も非常に多いようで、被害者の会や不買運動を呼び掛けるサイトもあり、絶対に買わない!と過激に批判する方も多くおられます。
筆者はポリウレタンには長所も短所もあるからケースバイケースで活用すれば良いと考えています。
しかしポリウレタンを嫌う方の気持ちもある程度理解できますし、一人の消費者としての立場から見れば、提供者側に消費者保護の観点が欠けていると感じています。
ストレッチ素材 ポリウレタン混の生地とは
そもそもストレッチ素材として知られるポリウレタンって何?という話。
ポリウレタンとは、ウレタン結合を有する重合体の総称。
繊維状に加工されて他の繊維と組み合わせて生地が作られ、その生地を使った衣類にストレッチ性を与えたり、
合成皮革(合皮)として使われたり、
靴にクッション性を与えるためにソールとして使われたり、
塗料として使われたり、
接着剤として使われたり、
等々、日常生活の様々な場所で活用されている素材です。
誤解を恐れずに物凄く簡単に言ってしまうと、化学的に合成されるゴムのようなもので、色んな形状に加工できて染色もしやすいことから、工業的な応用範囲がものすごく広いことが特徴。
そして多くのポリウレタンは自然環境下で経年劣化する性質を有しています。
要は放っておくだけで自然に劣化するってこと。
使わなくても、どれだけ丁寧に着用、保管しても必ず劣化するのがポリウレタンの宿命です。
ポリウレタンの劣化は何故起こる?
ポリウレタンの定義はウレタン結合を有したポリマーの総称。
なので、広く様々な使われ方をしているポリウレタンの全てが同一の化学式を有していて、同一の物理的・化学的性質を有しているわけではないのですが、ウレタン結合自体が自然環境下で劣化する性質を有している点がポイントです。
ポリウレタンの劣化を引き起こす要因は、水分、光、熱、酸素、微生物によるものがあり、実際にはこれらの複合作用によって劣化が進行します。
代表的なポリウレタンの劣化:加水分解
一番有名なのが加水分解で、水分によってウレタン結合が切れてしまう反応。
水につけなくても大気中の水蒸気にふれただけでも進行する反応なので、進行を遅らせることはできても使用する限りは防ぎようがありません。
加水分解が進むと文字通り分解されるので、ボロボロになります。
加水分解以外の劣化の定義も様々あるようなのですが、例えば住宅建材に使用される硬質ポリウレタンフォームと衣類に使用される伸縮性を有したポリウレタン繊維では別物といっていいくらい性質が違い、劣化の進行度合いも全然違います。
なので今回の記事は、合成皮革を含む衣類に使われるポリウレタンに限った話とご理解ください。
加水分解の仕組み
簡単に科学式を書くと
R-NH-COO-R’ + H2O ⇒ R-NH-COOH + R’-OH
名前の通り、ポリウレタンに水(H2O)を加わることで、ウレタン結合が切れる化学反応です。
加水分解の防ぎ方
水(H2O)に触れることで加水分解されるということなので、水に触れなければ反応は進みませんが、大気中には水蒸気が含まれています。
つまり大気中(=普通の生活環境下)で使えば、必ず水(水蒸気)に触れるので、完全に防ぐことは不可能です。
しかし、なるべく水(水蒸気)に触れないようにすれば、反応を遅らせ、劣化を遅らせることは可能です。
保管するときは湿度が低い場所に置く、乾燥剤を入れた袋に密閉しておく、お手入れのときに濡れた布で拭かない等の工夫で、劣化は遅らせられます。
ただ、どれだけ気を使っても使えば大気に触れるので、加水分解による劣化は避けれれないことは、理解する必要があります。
ポリウレタンが使われた洋服の問題点と論点
衣類にポリウレタンが使われるのは主なケースは以下の4つ。
- 本革の代替品として使われるケース
- ストレッチ性を付与するケース
- 素材を接着する接着剤として使うケース
- 生地をコーティングするために使うケース
ポリウレタンは自然環境下で劣化する素材ですから、上述の加水分解を含め、使われ方に関係なく劣化します。
使わなくても絶対に劣化します。
であれば消費者としては、
- その製品にはどんな種類のポリウレタンがどういう使われ方をしているのか?
- どのくらいで劣化するのか?
- 使用可能な期間はどのくらいなのか?
が知りたくなります。
衣類にポリウレタンが含まれる場合は一般的にその寿命は2~3年と言われています。
代表的な劣化である加水分解もその進行度合いは加工時の環境、使用時の環境、保管環境等で違ってくるので一概に言えず、製品の購入時には分かりません。
製造されてから長く在庫保管されていたポリウレタンを使用した衣類であれば購入から1年以内に寿命を迎えるものもあります。
極力空気に触れないように保管しつつ使用していれば3年以上もつものもあり、店頭で明示するのは困難です。
しかし難しいのは仕方がないとしても、だからと言って劣化について黙って何も言わずに売りつけて良いのか?
これが筆者の考える問題点です。
アパレル業界は消費者保護の考え方が薄いのか?
一般的に食品であれば賞味期限が明記されていますし、電化製品であれば保証期間が設定されていて保証期間内であれば無償で修理交換対応してくれます。
しかし衣類に関してはポリウレタン混のものは劣化する可能性が非常に高いにも関わらず、使用可能な期限の明記もなく、そもそも経年劣化することすら明記されていないことがほとんどです。
(※ユニクロは製品によっては劣化することが明記されています。こういった点は流石ユニクロですね。)
筆者は一応大学で化学を専攻していたので、加水分解と聞けばある程度理解できるリテラシーを持っていますが、世の中の大多数の人は空気に触れるだけで劣化してボロボロになるなんてことは知らないし、知らなくて当たり前ではないでしょうか。
そういう状況で劣化について事前に知らされることもなく、大切にしていた靴の底がボロボロになったり、ジャケットやコートの表面がベタベタになって使用に耐えない状態になったら、その人はどう思うでしょう?
消費者として賢くならなきゃいけない、という一般論はあるにせよ、失望や怒りを覚えるのも無理はないと思います。
クリーニング時のトラブルも多いようで、クリーニング組合もウェブサイトで啓蒙活動をされています。
愛用の洋服をクリーニングに出して綺麗にしてもらうつもりが劣化して戻ってきて、その理由がそもそもポリウレタン混だから、とか言われても「買ったときにそんな話聞いてない。」と思うのは当たり前の話だと思います。
何故アパレル企業は売る前に説明しないのか。
そりゃあ売る立場としては不利なことは説明したくないでしょうけども、少なくとも筆者の感覚では、結果的に消費者に不信感を抱かせ、クリーニング業界に尻を拭かせている態度からはフェアな姿勢が感じられません。
今時それはないよ、って話です。
(ここではアパレル企業だけをやり玉に挙げてしまいましたが、以前買った高級ヘッドホンのイヤーパッドも合皮でできていたので4年くらいで劣化してボロボロになって付け替えたことがあります。イヤーパッドの表面部分だけの話なので、音楽を聴くという本来の目的には使えたのですが、使う度に耳に海苔みたいにカスがついて非常に不快でした。保証期間は切れてるし、高価だったし気に入って長く使っていたものなので、結果的に取り換えられたから良いものの、まだ使えるのに捨てなきゃいけないのか?と考えた時は本当に嫌な気分にさせられましたね。)
“正しい知識” でストレスの無い生活を送ろう
洋服なんて3年後には飽きて着なくなるから経年劣化なんて関係ないとか、合皮の経年劣化も味の一つだ、といった意見も散見しますが、論点がずれているように思います。
消費者の了解無しに売っている点が問題なのであり、購入後の経年劣化を気にするかどうかは個人の価値観による話です。
筆者は幸いにもポリウレタンの性質を知っているので、ポリウレタン混の洋服を買うときは劣化することを覚悟して買っています。
劣化はしますけどもエアリズムや靴下等の機能性下着や細身のパンツにはストレッチ性は必須ですからね。快適性と引き換えなら仕方がないと割り切れます。
しかしポリウレタンはゴムのような性質を持っているので縮んで元に戻る形状維持性があり、生地に張りを持たせたい場合は10万円近くするお高いコートなんかにも使われていたりします。
そういうものは基本的に買わないようにしています。
そういう高価なものがポリウレタンの劣化でどういう状態になるのか、試したことがないので分かりませんが、試したくもないですね。
間違って買わないように買う前にアラーム立てて欲しいし、そもそも高価なものに使うのはやめて欲しいですね。。
以上、長々と書きましたが、ポリウレタンはいまや私達の生活になくてはならない便利なものです。
消費者側もリテラシーを身に着けつつ、提供者側も事前の説明で避けられる話であれば是非そうして欲しいと思います。
世の中から無用な不快感を無くしていただき、爽やかな世の中になればよいなと切に願います。
皆さんはどうお考えでしょうか。
ではでは。