債務超過に陥って瀕死の状態の日の丸液晶 ジャパンディスプレイ(以下JDI)ですが、中国の大手投資会社が出資を見送るとの報道がありました。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190928-00305373-toyo-bus_all
筆者もJDIには多少の縁があるので、たまに動向はチェックしているのですが、もう完全にゾンビ企業と化してますね。従業員の皆さんのご心労をお察しします。
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日の丸液晶 “ジャパンディスプレイ(JDI)” がやばい会社になってしまった背景
期待されていたような日本の最先端のものづくりの会社どころか、いまや日本の悪い所を凝縮したような恥ずかしい会社の代表みたいになっちゃってます。
本来日本が得意とするはずの最先端技術を持った会社なのに、何故こんなことになったのか。
色々なところで語られている話ですが、今回はその背景を筆者なりにまとめてみました。
破綻寸前の ”日の丸液晶” 官民ファンドでの企業再生とJDIの設立
JDIとは官民ファンド主導で複数の電機メーカーの液晶部門を統合して設立された「日の丸液晶メーカー」ですが、はじめにそもそも官民ファンドって何?という話をします。
まず、2003年に小泉内閣で竹中平蔵金融担当大臣が策定した金融再生プログラムの一環として、産業再生機構が作られました。
目的は金融機関の不良債権処理です。
当時、90年代のバブル崩壊によって金融機関が不良債権を大量に抱えてしまっていて、放っておくと健全な企業への融資ができなくなり、やばいから早く処理しなきゃいけないということで税金を突っ込むことになったわけです。
竹中大臣は「これは政府が税金を一般企業のために使うわけではなく、駄目企業の救済が目的でもない。あくまで金融システムを正常にするための施策である。」という説明をされていました。
結果、カネボウやダイエー等41の事業者が産業再生機構を通して公的支援を受けました。
指摘されていた公的資金での企業支援の問題点
その当時、産業再生機構で委員長を務めた高木新二郎弁護士が懸念されていたのが、主に次の2点。
1.民間企業でモラルハザードが起きる
「だめになっても国が助けてくれる、というモラルハザードが起きる。民間企業の公的資金での救済は本来やってはいけないことであって、必要悪である。」
これはもう当然ですね。加えて、困っている企業は他にもあるのに、一部の企業だけに公的資金を注入するとか、不公平と思われても仕方ないわけです。
だからこそ目的は「金融システムの正常化のため」であって個別企業の救済が目的ではないと強調されていましたし、産業再生機構の活動期限も5年と定められていたわけです。そして結果としては4年で解散しています。
2.救済された企業が経済産業省の権益になってしまう
ちょっと話が反れますが、官僚にとって天下り先の確保ってのは組織を維持する上で死活問題です。
何故かというと、終身雇用&年功序列という日本式雇用を維持するためには年次を重ねた方々のためのポストが必要になるからです。
毎年どんどん若い人が入ってくると、古株は昇進して後進に椅子を譲る必要がありますが、組織ってのは上に行くほどポストは減ります。
当たり前です。事務次官が何十人も存在するはずがありません。
そうすると組織の外に行ってもらうしかないわけです。年功序列のルールに反しないレベルのそれなりの報酬もセットで。
なので天下りってのは終身雇用&年功序列を前提とする限りは必要悪みたいなものなので、どれだけ世間から叩かれようと何とかして確保しようとするわけです。
各省庁毎に自前でその天下り先を確保しなきゃいけないわけですが、そのためには財源というか予算が必要です。
独立行政法人を作るにしても、企業に補助金を出すついでにポストを用意するにしても必要なのは予算です。
財務省は税金、
厚生労働省は年金、
総務省は郵便貯金や電波利用料、
というように大きな省庁はある程度自分たちで差配できる予算を持っているのですが、経済産業省って大した予算をもっておらず、財務省に頭を下げてなんとかして数百億程度の補助金出してもらう、みたいないまいちイケてない省庁。
なので企業からしても利用価値が低い。そうすると当然天下り先の椅子も多くは確保できない。
そんなところに企業再生なんていう大義名分で動かせるお金が、一時的とはいえ数兆円という単位で降ってきたらどうなるか。
もう死に物狂いで恒久化させようとしますよね。そして一度手にした権益は二度と手離さなくなると。
産業再生機構なんてものは金融システムの正常化のために止む無く作ったものであって、一時的な役割で終えなければならないはずなのに、官僚の都合で恒久化されてしまうこと、これが懸念されていました。
そしてゾンビ企業の延命が図られ続ける
そしてこの懸念が的中し、
2009年 企業再生支援機構
⇒ 2013年 地域経済活性化支援機構(REVIC)へ改組
2009年 産業革新機構(現INCJ)
2013年 海外需要開拓支援機構(クール・ジャパン機構)
と続いており、一時的だったはずの仕組みは絶賛恒久化中です。
企業再生支援機構は2008年のリーマンショックをきっかけに、有用な経営資源を有しているけども過大な債務を負ってしまっている地方の中小企業などの事業再生を目的に設立されました。
しかしこの機構が手掛けた一番大型の案件はJALの再生です。
当然ですがJALは中小企業ではありません。しかしナショナルフラッグシップの大企業を潰すと影響がでかいから緊急事態ということで3,500億円を突っ込んで救済されました。
産業革新機構も、本来の設立目的はベンチャーの育成です。
リーマン・ショックで景気が悪化して先端技術分野等への資金が回らなくなってしまったので、将来性のある産業育成という大義名分で設立されました。
しかしちょうどその頃に液晶や半導体といったエレクトロニクス産業が韓国、台湾、中国との競争に負けて経営難に陥り始めたので、経産省はその救済のためにこの仕組みを使いました。液晶のJDIと半導体のルネサスですね。
将来性のある次世代産業の育成どころかJDIなんていう明らかに旧世代のダメ企業の延命を図ったわけです。
何故国のお金で民間企業を経営してはいけないのか?
そもそも国のお金を民間企業に突っ込むことが何故ダメなのか?
不公平が生じるという話も当然あるんですが、結果的に利益を上げて世の中に貢献できる健全な経営ができれば良いんじゃないかという指摘もあって良いと思うんです。ちょっと乱暴ですが。
でも、それが成り立たないからダメなわけです。
まともな経営者や有識者はみんな言っていますが、国のお金が入るとまともな経営ができなくなります。
まともな経営とは、例えばコストを下げるためにより安く作れる場所に生産場所を移転するとか、世の中に必要とされていないために儲からない事業をやめて、将来性のある製品の開発にリソースを振り向けるとか、そういう話です。
しかし国のお金が入ると、工場の移転をするとか言うと政治家が口を出してきたりするわけです。
もうすぐ選挙なのにうちの地元から工場を無くすとは何事だ!みたいな調子で。
官僚や政治家の意向は無視できず、その彼らの本音と一番の目的は天下り先の確保だったり、選挙だったりするわけです。
官僚や政治家にとっては、まともに企業を経営するっていう話とは全然違うところに目的があるのです。
ジャパンディスプレイ(JDI)失敗の要因
話をジャパンディスプレイに戻します。
色々なところで語られているジャパンディスプレイの失敗ですが、その要因の一部をいくつか挙げたいと思います。
出発時点から極度の高齢化企業だった
聞いた話なんですが、設立当初の時点で営業部門や管理部門は半数近くがジェネラルマネージャーだったとか。
ジェネラルマネージャーってのは要するに部長です。
ただそんなに部があるはずもないので、部長級の位をもった部下無し管理職がうようよいたってことです。担当部長ってやつですね。
そしてそんなにたくさん部長がいても、その位にふさわしい仕事が大量にあるはずもなく、現場担当者レベルの資料作りや数字まとめの仕事を、ジェネラルマネージャー達が奪っていくみたいな状況だったそうです。
平均年齢はたぶん50歳を超えてたんではなかろうか。
ちょっと大げさに表現している可能性もありますけど、普通の人が聞いたら「何それ!?」っていう、もう冗談としか思えないような状態ですよ。
当然ですが、その部下無し部長さん達は元々日立や東芝、松下電器、ソニーといった大企業の液晶部門にいた人達です。
なので待遇はその当時をある程度継承しているでしょうから、年収1,000万を超えるくらいのお高いお給料はもらっているわけです。
嫌な会社やな~~。普通に考えてまっとうに仕事をしているようには思えません。
なんでこんなことになったのか。
要するに若い人はJDI設立の前に辞めていて、辞めたくても辞められない、行き場の無いおっちゃんばっかりになった状態でJDIが設立されのではなかろうかと思います。
というか元々は各社で赤字続きのお荷物部門で、赤字なのに他社との競争環境についていって最低限のビジネスを継続するためには、継続的な設備投資が必要になるという悪夢のような事業を各社から集めてできた会社です。
統合前の段階で新人採用なんて絞っていたでしょうし、脱出できる若い人はとっくにそうしていたでしょう。
経営の話、なんて大げさなことを言わなくても、まあこの時点で厳しいですよね。。
次世代技術(OLED)を持っていない
設立の前後から、次世代ディスプレイとしてOLED(有機EL)が注目されていたというのはディスプレイ業界では常識でした。
ただOLEDより液晶の方が性能面で優位であるからOLEDへの置き換えは進まないという主張もあり、完全にその評価は固まっていませんでした。
そんな状況だったので、経営判断として液晶のみでやっていけると言えるだけの根拠も無く、中小型のディスプレイ専業でやっていく以上は並行してOLEDへの投資もやる必要があるというのが当時のまっとうな見解だったと思います。
事実として韓国、中国メーカーはそうして開発を継続していたから今があるわけです。
しかしJDIはそもそも各社の液晶部門のみを切り離して設立した会社なので、OLED(有機EL)の技術も量産ラインも持っておらず、量産ラインを作ろうにも技術も金も無いという状態で設立されています。(JOLEDと戦略提携をしており一時は子会社化を検討していたものの、これもやっぱりお金がなくて断念。)
トレンドを見る力が無かったのか?いやそんなことはないはず。
ディスプレイ業界で飯を食っている人達だし、普通に考えてOLEDが必要ってことぐらいは分かってはいたでしょう。
しかしOLEDが絶対に必要とか言い出すと統合話のハードルが上がってしまうので、とにかく生き残ることを最優先してOLEDは後回しで統合を進めた、ということなんでしょう。
ケイパビリティギャップとか難しいことを言わなくても、普通にその業界で仕事していれば分かるような技術トレンドだったり、今後世の中でどんなディスプレイが必要とされるかという当たり前の顧客目線があれば分かるような話なのに、見て見ぬふりをして自分達の都合で話を進めてしまったということでしょう。
サラリーマンとして気持ちは分かるし、よくある話ですが、この時点でもうヤバいわけです。
国策企業化してしまい適切な時期にリストラできなかった
2019年6月になってようやく工場の操業停止を含むリストラを発表しましたが、それまではリストラどころか拡大路線を敷いていました。
JDIの経営悪化の大きな要因の一つが、売り上げのモバイル分野への過度な依存であると言われています。
しかしJDIは車載用の液晶等、物量は比較的小さいけども高いシェアを誇るカテゴリー(つまりは顧客から高く評価されている製品)を持っており、そういった分野に特化していくという選択肢もあったはずです。
但しそれは売り上げが大きく落ちて利益率が良くなるという話なので、大幅な固定費の削減、いわゆるリストラが絶対に必要になります。
しかしそれはやらなかった。
取締役会の中では、工場の操業停止を含めたリストラに関してはあり得ないといった雰囲気であったと、元執行役員の伊藤嘉明氏もインタビューで仰っています。
その理由は想像しかできませんが、そもそも国のお金が入った時点で政治的な意図や経済産業省をはじめとした一部の利害関係者の都合が優先されて、まともな経営判断ができるようなシチュエーションではなかったであろうことは容易に想像できます。
国策でやった事業でリストラなんかしたらアベノミクスのイメージが悪くなる、みたいなね。
で、死ぬ寸前になってようやくリストラをやってるわけで。もっと早くやっていれば別の道もあったでしょうに。
経営ビジョンの無さとアップルの数量頼みの幼稚な経営判断
あえて幼稚と言い切っていますが、たくさん売れれば儲かるとか子供でも分かるような理屈です。
上で言ったように、思い切った選択と集中をせずに、工場の操業も続けたいのであればモバイル向けを続けるしか道はなく、なまじiphoneなんていう身の丈を超えた莫大な数量が出る製品に採用されて一発当たっちゃったもんだから依存せざるを得ないわけです。
iphone向けだけで売り上げの50%を超えてるって、どう考えても身の丈に合わない相手への依存です。それが無くなったら倒産するんですから。
どう考えてもリスキーなのにそんな話に乗ってしまったのは、経営ビジョンが無いからその場凌ぎで美味しそうな話に飛びついてしまったってことでしょう。
他にやりたいことや、やるべきことがなければ断る理由が無いですからね。判断もくそもありません。
それで50%も生産キャパを取られれば、今度は他のことができなくなって、iphoneのことしか考えられなくなって中毒になっていくわけです。
そんなものは経営ビジョンとは言いません。思考停止して易きに流れているだけの、子供でもできる判断です。
そんな話が経営戦略の根幹になっているような会社ですから、石川県の白山工場の建設なんていう話も通るんでしょう。
iphoneのために1,700億円かけて白山工場を作ったものの、iphoneのメイン機種のディスプレイはOLEDに置き換えられて液晶が要らなくなって無期限操業停止中とか、なるべくしてこうなったとしか思えません。
まとめ:やばい会社で働くとき、個人の立場で考えるべきことは
- 年功序列で偉くなったおじさん達を大量に抱えて船出をして
- 当然必要な将来技術(OLED)にはきちんと投資せず
- 痛みを伴うリストラはせず
- 自分達が「今」生き残ることが最優先で
- どういった価値を世の中に提供するのかといった明確なビジョンはなく
- 中毒になることが分かるはずなのにその場凌ぎで量に依存して
- 難しい話は後回しにし続ける
冷静に考えれば、「どうにかなるだろ」「こういう条件が揃えばいけるはず」といった楽観的な前提をベースにした戦略がまともなはずがないんです。
当事者からすると、どれもこれもその場の判断としては「これしかなかったんだ、仕方無いじゃないか」という話なんだと思います。
でもね、本当に心の底から当事者達が「これで会社が成長できる」と腹落ちできる戦略だったんでしょうか。
自分のお金を投資してでもやるべき戦略だと本当に思っていたのでしょうか。
経営者の皆さんは本来優秀な方のはずなので、しがらみ無しで考えれば「まずいだろ」と思ってたんじゃないでしょうか。
色々な事情があったとはいえ、筋の悪い話をいくら時間をかけてこねくり回しても、ダメなものはダメなんです。であれば早くやめるべきなんです。
従業員の方々や株主の方々の憤りを想像すると、本当に気の毒に思います。
自分が関わっている事業に対して、当事者である自分が「これはまずいんじゃないか?」と思う何かがあるのであれば、たぶんそれは当たっています。
一刻も早く何とかするか、撤退するか、行動を起こしましょう。
そういうときってたぶん時間は味方になってくれません。
ではでは。