電機業界と会社の話

アニメビジネスの概況の話

今日はアニメビジネスの話。

2016年に、アニメビジネスをやっている大手企業の役員の方のお話を聴く機会がありまして、その内容は主にアニメビジネスの現状についての説明だったのですが、そのときのメモを発見したので、筆者の備忘録も兼ねてつらつらと書こうと思います。

筆者はアニメが好きで、Netflixで何か見るときは7割方アニメを見ているのですが、同じようにアニメ好きでビジネス視点の話や社会情勢の観点でも興味がある方には面白い話かも。

テレビアニメの制作本数

放送時間のスポンサー料が高いキッズファミリー向けの制作本数は横ばい。一方で深夜時間帯のアニメが増加傾向。スポンサー料も低いので低リスクでビジネス展開できるのが事業上有利。かつターゲット層が絞りやすいのでマーケティングしやすいのもやりやすい理由の一つ。

 市場規模はどのくらい?

日本での市場規模は、ちょっと古新聞だけども2014年度(会計年度)で約1.6兆円。

内訳は、約6,500億円が商品化(要はグッズ販売のこと。ガンダムだとプラモデルとか。)、約3,000億円が遊興(パチンコ、パチスロがメイン)、約3,000億円が海外展開、残りの約3,500億円がTV、配信、映画、DVD等の映像自体の収入とライブコンテンツ収入。この3,500億円からTVを除くと約1,800億円。1,800億円のうち配信市場が約400億円で、ライブコンテンツが約300億円。

映画の市場はジブリ作品の有無で大きく変動する。ジブリ作品がある年は倍くらいに伸びる。数字だけを見るとDVD(パッケージビデオ)の市場がアニメ市場のほんの一部に過ぎないということが良くわかる。5%にも満たないくらいのイメージだもんね。大雑把にいうと、タダで見てもらってグッズやパチンコなどの映像以外の二次利用で投資を回収する、という構図になっている。

個人的な実感としても理解できる話で、だって自分もアニメ好きだけどもパッケージを買うことって滅多にない。(最後に買ったのはガンダム The Origin。)

制作委員会方式とは

スポンサーがCM枠を購入する形で広告代理店を通してTV局に資金が流れるところまでは普通のTV番組と同じだが、制作委員会方式をとっているのが近年のアニメの特徴。

この制作委員会に出版社や広告会社、玩具メーカー等が出資者として参画してそれぞれおお金を出しあって、通常のスポンサー料と制作委員会に直接出資された資金を元にアニメ制作会社がアニメを作り、グッズ制作などの二次利用の原資になる。

権利や儲けの配分なんかはこの制作委員会が仕切る形になる。

作品がヒットすれば大儲けできるが、はずれることも多いリスク高めのビジネスなので制作委員会方式をとって複数社で出資してリスクを抑えるのが主流。

昨今の参入企業の増加

アニメビジネスは当たればでかいし、二次利用も含めると事業性が高いということで近年は新規参入が増えており、競争が激化している。

それに伴って作品の制作数が増加。しかし類似性が高く(似たような作品が多いということ。異世界転生ものとか1シーズンに複数あったりしますもんね。)、一部の作品以外は採算が合わない状態。二次利用をしようにも、まずアニメ作品が無いと成り立たないのでとりあえず作っとけみたいな粗製乱造のような作品も多くなっている。

そしてそんな状況なので原作が枯渇してきている。

日本の大手事業者

日本の中で強いとされている事業者はバンダイナムコ。コンテンツ制作、商品化、配信サービス等々ほぼ全ての事業領域を持っていることが強み。サンライズを買収したことで原作も持つようになった。何か案件があればバンダイナムコに持っていけば何とかなるということなので、ほとんどの仕事がバンダイナムコに流れるような仕組みになっている。ガンプラ等、ガンダム関連のグッズを見れば自明だけども、特に商品化はめっちゃ強い。なんでもできるアニメビジネスの総合企業。

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商品化展開による売上が4割を占めているという話が素直に驚き。

確かに言われてみれば、深夜アニメを見ててもCMはそのアニメのスマホゲームだったり、タイアップ曲の宣伝だったり、関連商品のプロモーションばっかりですもんね。

しかしDVDで儲けることは最早成り立たないにも関わらず、大概のDVDは放映版から大幅に修正された映像が収録され、別物と言っていいくらいにクオリティを上げて売ってますよね。DVDまで買う人は他のグッズをいっぱい買ってくれる可能性が非常に高い、Royaltyの高い優良顧客だから、その顧客の期待に応えるのは大事なことなんでしょうね。

私が中高生の頃なんて、アニメ好きって言うとネクラだオタクだ気持ち悪いやつだと周囲からレッテル貼られてたものです。最近は女性のファンも増えて、アニメ見てるって言っても別におかしなことではなくなり、市民権を得て1.6兆円の市場規模を持つまでになったというのは隔世の感がありますね。

海外展開の現状

海外は配信サービスの増加でアニメの視聴地域が拡大しており、更に中国や東南アジアの一部地域での所得増により二次利用も拡大傾向にある。

但し日本のような大人のファンが少なく、主な視聴層が子供なので高額投資者が少ない。ちなみに日本では「ガンダムなら10万でも20万でも払うぜ!」という人(信者?)が20万人くらいいるそう。なるほど筆者もどうしてもほしくなればガンプラに2万円とか惜しくないもんね。大人のファンって子供とは桁が違いますもんね。

これは子供の時に視聴層だった人達が社会人になりファンとして積層されてきたために起こっている話。海外のファンはまだ最近視聴を始めたばかりなので、今後日本と同じようにファン層として積層されていくかどうかは、今のところ未知数。

配信サービスの現状

世界中で展開されている映像配信サービスの中でも日本のアニメは良く見られており、人気コンテンツの一つ。

配信市場での主な事業者は日本だとキャリア系と外資(Amazon PrimeとかNetflixとか)。中国では有象無象の事業者が乱立して伸びてきている。中華系ってパクってばっかりで制作者や原作者にとってはビジネスにならないイメージが強いが、最近はオフィシャルになってきていてお金になるようになってきている。というのも背景にあるのはそれら事業者同士の競争で、要はパクってるだけだと差別化できないという話。パクったものを流すだけなら誰でもできるので他の事業者にも簡単に真似されてしまい、事業として育たない。なのでちゃんとお金を払って人気作品をオフィシャルに自分のサービスだけで配信することを望むようになってきている。当たり前の話だけど、パクってばっかじゃ市場からは評価されず、上手くいかないって話。市場の力って凄い!

そうやって中華系の会社間で人気作品の争奪戦が起きてマージン、ギャランティーは絶賛高騰中。

配信系オリジナル作品の増加

配信サービスの話からの続き。独自性を出して競争するようになると当然既存の作品だけではなくオリジナル作品を作るケースも増える。特に中華系とNetflixが大金を積んで日本での人気作の監督や脚本家を引っこ抜いて作品を作らせている。

特にNetflixはオリジナルに力を入れていることで有名で、中でもアニメは重要視しているコンテンツ。なんでもNetflixの検索ワードの上位3つが、S○X、Naruto、セーラームーン、だそうな。(※2016年時点の話)

しかし検索ワードの分析とか、ビッグデータを用いた分析はアメリカの会社らしく得意なんだけども、本質的な目利きがまだできておらず作品の当たり外れが大きいのが課題。目利きというのは、この監督とこの脚本家とこのアニメーターが組んで作ったものならほぼ間違いなく良作になる、みたいな話で、業界に長くいればそういうことが分かるようになるらしい。Netflixは新参者なのでそこまではまだできておらず、今のところはデータ分析頼りだけども、そういった目利きも、できる人を雇ってしまえばできるようになるわけで早々にキャッチアップしてくるものと思われる。(何度も書きますがこれは2016年当時の話。2019年現在は一人の視聴者としての感想だけども、確かに作品レベルが上がってきているように思える。)

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以下、筆者の感想。

自分もアニメは好きで、Netflixで見てるのはもっぱらアニメばっかりって感じなんですが(Netflixで見れる筆者おすすめアニメの紹介を今度書きます。)、一人のファンとしてアニメに資金が集まってきて作品の質が上がるのはとっても嬉しいことです。

労働集約的な産業で工数をかけられるかどうかって話はお金をかけられるかどうかとほぼイコールの話。人の手で作られているアニメはお金をかけられるかどうかがクオリティーを大きく左右します。作り込まれたアニメ映像の素晴らしさは誰の目にも明らかでしょう。

外資が大金を積んで日本のクリエイターを囲ってるって、ちょっと嫌な響きを感じるかもしれませんが、筆者は凄くポジティブに捉えています。

旧態依然とした日本のテレビ局と組んで仕事して、現状維持が最優先事項になってしまっている高齢社員に高い給料を払うための養分にされて一緒に衰退していく、なんてことには絶対になってほしくないですし。

より高く買ってくれる事業者と仕事することはビジネスとして健全でしょう。より強く必要としてくれる相手ってことですからね。日本のテレビ局がそういった新しいビジネス展開を主導できれば良かったんでしょうけども、もう無理っぽいし。

資金の出所が増えるということは、クリエイターが仕事をする環境の選択肢が増えるってことです。選択肢が増えるってことは選べるってことです。大抵の場合、選べるってことは良いことです。

70年間もの長い間、紛争や戦争と無縁でいられた平和の時代の中で培われた日本人の想像力が生んだアニメは、今や世界中で視聴される日本の文化になりました。

今に続く歌舞伎や落語、俳句といった文化も江戸三百年の泰平の中で育まれたものです。平和の有難さよ。

これからも日本のアニメが発展するよう、せっせとNetflixでアニメを見たいと思う。

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