最近、ジョブ型雇用という単語をよく聞くようになった。
ジョブ型雇用とは、要は業務の内容と報酬が明確に結びついてる雇用形態のこと。こういう仕事をしてるから、お給料はいくら、というのが明確に提示された雇用形態で、日本でもアルバイトなんかはそうなっているのが普通だ。
対してメンバーシップ型雇用というのが、いわゆる従来の日本企業的な正社員のこと。業務内容は明確に定められていなくて、言われたことは大抵なんでもやり、入社年次と総合的なスキルで報酬が決定されるという雇用形態のこと。世界的に見ると珍しい形態だ。
最近になってジョブ型、メンバーシップ型、とか横文字が出てきたけど、別に新しい概念ではなくて従来から、職務給、職能給、という呼ばれ方で存在していた。
職務給=ジョブ型
職能給=メンバーシップ型
って感じである。
身分制度化してるメンバーシップ型の雇用制度が、日本経済を停滞させている原因の一つなので、ジョブ型(職務給)にしなきゃいけないんじゃないの?と言われ始めているが、筆者の会社でも少し前に、職務給(ジョブ型)の人事制度を導入している。
でも案の定というか、あんまり上手く機能していないのだ。
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日本型雇用が生み出す怪物社員
筆者は一応会社で下っ端マネージャーをやってるのだが、筆者のチームに
- 入社12年目の男性。
- 社会人スキルは新入社員並み。
- マニュアル化された作業しかやれない。(考えさせると必ずポカをやらかすかフリーズする。)
- 指示されたこと以外はやらない。(能動的に動くという発想が無い。)
- 意欲が無い。
という強者がいる。(以下A君)
他人に対して攻撃的な言動をとったりとかは全くない、いたって人畜無害な超草食系男子なのだが、いかんせんエネルギーが無さ過ぎて仕事ができない。
何度教えても覚えず、マニュアルが無い場合は全ての手順と工程について一つ一つ聞いてきて、上司に事細かな指示を求めてくる。というかそれって上司に仕事を丸投げしてるに等しいのだが、そんな認識は全くなくピュアに聞いてくるのだ。
そして指示しても妥協のレベルが物凄く低いところにあって、想定をはるかに下回るアウトプットを出してくる。っていうか平気で間違う。だから結局他のメンバーがその子の尻ぬぐいをする。
度を超した真面目系クズというのか。強烈である。
よく新卒で入社できたね?と言いたくなる。リーマンショック直前の時期とはいえ、何故そこそこ厳しい時代の就職戦線を勝ち抜けたのか、謎である。
まあ普通に困るのでゴリ詰めして仕事させたいところだが、今の時代それはNG。パワハラになってしまう。
本音を言えばね、ゴリゴリに詰めて甘えた根性を粉々にしてとりあえず精神を破壊してやりたいところだが、ダメ絶対。
もしパワハラ認定されてメンタルでダウンでもされたら余計に仕事が増えるし、社外の左翼系の輩と組んで会社を攻撃しだす、なんてことも考えられる。
今の世の中、昭和のノリで教育的指導なんてことは、デメリットが大きすぎて現実問題できないのである。
しかし優しく教えても一切成長しない。それどころか仕事を与えるとつきっきりで手順を教えないといけなくなって、周りの負荷が増える。
だからもう見捨てるしかない。考えることが必要な仕事は与えず、マニュアル化されたルーチン作業のみをやらせるしかない。もうこの時点でビジネスマンとしてのキャリアは終わったも同然。仕方ないとはいえ、可哀そうな話だ。
昭和ノリの熱血指導が必ずしも良いこととも思えないが、今の世の中もある意味でとても冷酷なのだ。
しかしルーチン作業だけをやらせるといっても簡単な話ではない。適切な仕事を与えないのも、それはそれでパワハラにあたるからだ。ただ干せばいいってもんでもない。コンプラコンプラ。
なのできちんと手順を踏む必要がある。
できない社員を干す手順
まず上司のその上の上司にまで、人事権をもった人に丁寧に説明して状況を正しく理解してもらい、干すのはやむを得ないことだと納得してもらう。
次に上司と一緒に人事部に話を通してA君を降格させる。ここが超大事。今のA君のポジションは自律的に仕事をする、つまり自分で考えて裁量をもって動くことを前提にしたポジションで、それに見合った報酬が与えられている。
従ってそのポジションに見合った仕事を意図的に与えないのはパワハラ認定されてしまうし、そもそも契約違反と言われても仕方ない状態になってしまう。
だからレベルの低い仕事しか与えないのなら、職位をそのレベルに合わせる必要がある。
お分かりだろうか。そうしないと管理者側がリスクを背負うことになるから、当然の処置なのだ。
そして人事制度の変更も、こういうときに職位の変更をしやすくするためにやったことのはずなのだ。
つーことで人事部に話し、後は人事で手続きだけよろしくね、と思っていたら、驚いたことに人事から待ったがかかった。
解雇にできない中での降格させるリスク
いやいや、ダメってどういうこと?って話である。
ルールに従ってるだけなんですけど?と詰め寄ったところ、人事いわく
「ルーチンだけしかやらない人ってのは今のところ正社員ではほぼ存在しないことになっている。ルーチンだけなら派遣さんで十分なので。だからルーチン作業だけをする職位ってのも一応形だけは存在するけど、実際には存在しない。そしてそんな悪い意味でレアな人にしてしまったら、今後の扱いが難しくなる。要は社内で敬遠されまくって引き取り手がいなくなり、異動も難しくなる。だから今のままで何とかしてくれないか。」
なるほど一理ある。けど仲間をだまし討ちするような、ひでぇ話である。
いやいや、そんなん制度が機能してないってことじゃん?現場でリスクとってなんとかしろってこと?と言っても、今は降格は勘弁してくれ、ごめんやで、の一点張り。
ということで今も解決できていないのだが、案の定というかやっぱり今はまだジョブ型雇用を運用するのは難しいのだ。
労働市場の流動化はジョブ型雇用が機能するための最低条件
ジョブ型雇用が正しく機能するには、今存在する仕事にマッチする人材を各ポジションに当てはめないといけないわけだが、仕事の種類や難易度なんてものは事業の状態によって変わる。
事業の売り上げを伸ばす攻めの時期と、市場成長が止まってからの守りの時期とでは仕事のやり方も種類も難易度も変わって当たり前である。
ということはその状況に応じてフレキシブルに役割と報酬を見直す必要がある。必要無くなった仕事をやっていた人は別のポジションに就くことになるのだが、必ずしも本人が希望する仕事が社内で空いているとは限らない。
逆もまたしかりで、新たに必要になった仕事に適した人が社内で見つかって、かつ異動できる状態にあるとも限らない。
つまりジョブ型雇用を成り立たせようと思ったら、そういうフレキシビリティを担保してくれる流動的な労働市場が不可欠なのだ。
大企業でも社内だけで流動性を確保するのは難しい
大企業であれば社内の労働市場を流動化させることで対応できる可能性もある。というか国の雇用制度が硬直的で十分な流動性が確保できず、指名解雇が出来ない状態では、各企業が自力でジョブ型雇用を導入するには、おそらくそれしか方法が無いだろう。
しかしいくら大企業でも自社内だけで十分な労働力の流動性を確保するのは難しいだろう。少なくとも筆者の会社では、今のところは無理のようだ。
筆者の会社の例のA君の例だと、社内で転職するには最低限のキャリアと能力が必要で、それを満たさない例外的な人の社内転職は基本的に無理だということだ。考えてみれば当たり前の話なんだが、それでは本当の意味で市場の流動性が確保されているとは言えない。
まあそりゃそうだ。大企業といえども事業の範囲は限定されているし、製造業が合わないからアパレル行こう、みたいな業種を超えた異動なんてできない。どうしたって業種も職種も限定される。本当の意味での転職は社内異動では無理だろう。
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ということで、やっぱり本当の意味で労働市場の流動性を確保しようと思ったら日本全体でやらないと無理だろう。
そしてそれができないとA君のような人が会社にぶら下がり、飼い殺される人生を送る人が増え続けるんだろう。
そういう人の終身雇用コストを負担し、損を被るのは顧客と株主である。
そんなことやってたらいつまでたっても投資は呼び込めないし、生産性も向上しないだろう。
賛否両論あると思うが、雇用市場を流動化させるためには、金銭解雇の導入は避けられないと思う。